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「慰謝料は60万、分割でも大丈夫です。須賀健斗とは今日を最後に二度と会わない事、近付いた場合は罰金5万を須賀由紀に支払う事。須賀健斗が藤代由巳に近付いた場合は、こちらに連絡をする事。須賀由紀に確認の上、須賀健斗が藤代由巳に罰金5万を支払う事とする。以上になります。これで宜しければ署名、捺印をお願いします。」 大倉に言われて目の前の書類を見つめた。 「あの、これで本当に?60万、随分下がりましたけど、奥様は本当にこれでご納得されたのですか?」 100万が60万に減り、由巳も驚いて訊き返す。 「不倫の慰謝料は30万から300万が妥当と言われています。今回は年齢もお若いしご両親から払って戴くという事も考えて、当初は奥様も許せないお気持ちが強かったですからその金額になりましたが、奥様は必要以上にあなたを殴り、意識を失ったあなたをさらに数回殴っています。それは課長さんが教えて下さいました。意識のない相手にする行為としては裁判になっても奥様の印象が悪くなります。課長さんはいつでも証言すると言われました。そして会社もあなただけがクビになった。流石にやり過ぎたと思われた様です。これで完全にあなたとご主人は引き離される。それで満足だそうですから、今後、傷害で裁判を起こす事をしない事を条件に納得して下さいました。」 書類をもう一枚、目の前に出された。 「裁判を起こさないという署名になります。」 「裁判なんて…あの時の痛みは奥様の痛みです。私にはそうされる理由があります。」 ペンを取り、サラサラと署名した。 診断書を大倉に見せて、それに目を通すと大倉は由巳に優しい目を向ける。 「打撲、脳震盪、額の怪我は痕が残る。女性なのに顔に…。」 辛そうに言うと大倉は何かを考え込む。 それについて由巳が有利になる方法かと思えたから、声を出した。 「もういいんです。これを見たら馬鹿な自分を思い出します。戒めです。今日で全部、終わりにしたい。新しく気持ちよく生きたい。去年、家族でいる所を見てから、ずっと苦しかった。ばれなければ終われなかった。だから奥様が気付いて下さって良かったと今は思います。お辛い気持ちにさせた事がここまで来ないと別れられなかった事が申し訳ないですけど、大倉先生が相手の弁護士で良かったです。本当にありがとうございました。」 少し辛そうな目で由巳を見てから大倉は微笑む。 「ではこれで……。慰謝料は分割にされますか?」 そしてまた淡々と事務的な顔に戻って聞いて来た。
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