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「一括で…早く終わらせたいので…。」
「大丈夫ですか?」
心配そうな顔に笑顔を向けた。
「はい。貯金が50万程ありますし、残りは課長が色々と動いて下さって、退職金が少し多めに頂ける事になりました。それで支払います。暫くはアルバイトですけど…落ち着いたら家に…帰ろうと考えています。」
「そうですか。ご実家に。疎遠と聞いていたので心配していましたが、それはいいですね。ごゆっくりされて、お仕事を探されればいいと思います。」
「はい。ありがとうございます。本当に…お世話になりました。大倉先生の事は忘れません。奥様が先生を指名された事、お礼を言いたい位です。どれ程気持ちが穏やかになったか。本当にありがとうございました。」
深々と頭を下げて由巳は涙を溢れさせた。
本当にいい出会いで感謝しかなかった。
それから一か月間、アルバイトをしながら少しずつ部屋の要らない物を売りに行き、処分し、バイトも辞める事を話して謝りお礼を言い、アパートも解約して、由巳は家に戻る事にした。
お金が僅かしかないから冷蔵庫、洗濯機、テレビ、布団、売れる物は全て売った。
偶然というかここでも由巳を助けてくれる出会いがあった事は幸せと思えた。
アルバイトをしていた定食屋のおばさんが、由巳の行き先を聞くと、その近くに自分の弟が店を出していると言い出して、働くとこを探すなら弟に話しておくと言ってくれたのだ。
田舎だが同じく定食屋をしているという弟と電話で話をさせてもらい、引っ越し前に働く所が決まったのだ。
驚いたが感謝しかなかった。
こうして一か月後、由巳は自分の家と胸を張って言える「家」に一人で帰った。
誰も居なくなった平屋の古い家。
(一年放置してたら、お化け屋敷みたいね。)
くすりと笑い、鍵を開けて家に入った。
「ただいまー。おじいちゃん、お母さん!馬鹿な娘が……帰って来たよぉ〜〜。」
窓を開けながら涙を流した。
少しひんやりとした風が入り、流れた涙を乾かしてくれた。
ーーおかえり。お疲れさま、頑張ったね。ーーー
そんな声が聴こえた気がした。
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