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その日は祖父と過ごして夕方帰宅した。 新しい母がいてこの母は由巳には興味や関心がなかった。 父親がいる時は「由巳」と呼ぶが、いない時は何をしても興味がない。 だから父親がいない時は一人暮らしだと思って、由巳も母親と思われる人に話し掛ける事もなかった。 次の日曜日に母の実家から2時間程の距離にある総合病院を訪れた。 総合受付で母の名前を出して聞く。 お見舞いの時間という事もあり、すんなりと教えて頂き、ドキドキしながらエレベーターに乗った。 内科と書かれたそこの8人部屋に母はいた。 歳を取ったが顔を見た瞬間に母だと分かった。 母も同じだった様で、泣きながら迎えてくれた。 離婚の経緯、母の苦労を聞いて益々新しい母と父親との関係は拗れた。 由巳を引き取りたいと話したが、母に仕事もなく実家に帰っても仕事があるかも分からない。 中学生だった由巳を転校させて、思春期の時期に生活環境が変わる事も良しとしないと、父親の方が経済的にも環境でも養育に相応しいと判断されたのだと聞いた。 高校入学した頃、会いに来てくれたらしいが、新しい母に門前払いされて、暫く少し離れた場所に居て家に入る私を見たらしい。 それを聞いて涙が溢れた。 父からは経済的に連れて行くのは無理だからと、連れて行きたい気持ちもあるが邪魔にしか現状はならないと母が話していたと由巳は聞いていた。 ーー「お母さんは結局、生活が苦しいのは嫌だったんだろう。」 そう言われて悔しかったけど仕方ないとも思っていた。 だから…どんなに苦しくても大変でも、由巳に苦労させると分かっていても一緒にいたかったと言われて、生きて来た中で一番嬉しい言葉だった。 それから母と祖父のところに休みの度にお邪魔した。 父が時々、何処に行くと聞くが、平然と答えるとそれほど詳しく聞こうともしなかった。 そうして高校を卒業した。
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