1781人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
父親の家を出て一人暮らしを始めた。
会社に勤め出しても母の病院、祖父の実家、母は時々退院して、そんな時は祖父も外泊して私も祖父の家に行った。
その夏、異常な暑さの所為だろうか。
祖父は帰らぬ人になった。
体調の悪い母を助けながら狭い自宅でひっそりとお葬式をした。
祖父の家は古い木造の平屋で3DK程の小さな家だった。
庭は少し広めだったから祖父が元気な時は小さな畑を作っていたらしいが、今は鬱蒼としている。
近所の人と老人ホームの人が来てくれたが、本当に静かで参列者も少ない葬儀だった。
二人きりになり母の体を心配して寝るように促した。
「お母さん寝て、お線香は私が見ておくから。」
「二人の方がいいよ。何か話そうか?こんな時間はそうないからね。」
おじいちゃんを間に色んな話をした。
朝が近付く頃、やんわりとした光がカーテンの隙間から入る部屋の中で母がポツリと呟いた。
「私の方が…先に逝くと思ってた。母さん、あんまり長くないらしいの。」
言葉が出なかった。
再会した時も入院していて退院してからも通院していたし、入退院を繰り返していたからもしかしたらとは思っていた。
だけど本人の口から聞くと、衝撃だった。
「あんたに残せるのはこの家位だけど、古い家だから土地代だけだし、僅かで申し訳ないけど売っていいからね。数百万位にはなるだろう。駄目な母親でごめんね。由巳は……良い人と巡り会って幸せになるんだよ?」
母とじっくり話が出来たのはそれが最後だった。
それから一か月後、入院した病院で入院も知らせずに、母はひっそりと亡くなった。
まだ若くて綺麗なままで……肝臓をやられていた。
離婚して飲み屋に勤めて、無理してお酒を飲んでいたらしかった。
葬儀にも来ない父に怒りを覚えて、ただでさえ疎遠だったのに、由巳は縁を切る様にそれから一度も帰らないし連絡もしなかった。
勿論、向こうの家からも何もなかった。
入社して4か月足らずで色々な事があり過ぎた。
*****
最初のコメントを投稿しよう!