1

5/5

1781人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
葬儀を終えて会社に戻ると一週間後にはもう指導担当が外れる日が近付いていた。 この三か月、沢山助けてもらい教えてもらい、ずっと一緒にいたのでこれから一人前だと言われて一人で仕事をする事には不安があった。 忌引を終えてとうとう須賀が指導を外れる日が来た。 朝礼の後で課長から、 「今日で最後だから、しっかり学んで来週から一人で頑張って下さいね。困ったらいつでも私でも須賀でも先輩ですから相談して下さいね。」 と言われて、今日で本当にもう一緒にはいられないんだとじわじわと寂しさが溢れた。 取引先から帰社する車の中で、会社に着いたらもう終わりなんだと思うと切ない気持ちになった。 「あの……変な事聞いていいですか?」 「うん?どうぞ。」 いつもと同じクシャッとした笑顔で言われた。 ハンドルを握る須賀に助手席で下を向いて聞いた。 「あの…祖父の葬儀とか、母の葬儀とかがあって、お休みをしていたから私、他の人より指導期間が短いと思うんですよ……ね。」 「うん?まぁ、実質、一週間は休んだからね。仕方ないよ。」 笑顔で返してくれるけど欲しい答えはそれじゃなかった。 「あの……不安っていうか…その、もう一週間、休んだ分だけ、延びたりしませんか?…………無理ですよね。」 言いながら無茶を言ったと由巳は後悔をした。 が、須賀が少し考え込み、それもそうだな、と呟いたので顔を上げた。 「課長に話してみるよ。俺も中途半端で一人前って放り出すみたいで嫌だしね。」 帰り際、課長に呼ばれて、たった一週間でも不安がある事、他の社員と勉強に差が付いた気がする事を話すと、一週間くらいはたいしてと課長は言ったがまぁ、一週間だし…と指導担当を延長してくれた。 そこには祖父に続き母を亡くした私の気持ちが不安定だろうという配慮もあったのだと思う。 結果、いろいろな言い訳をして由巳は須賀の側にいられる事を喜んでいた。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1781人が本棚に入れています
本棚に追加