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アパートに戻ると部屋に鍵を掛けていなかったので、部屋の前に来ていた警察官に先ずは注意された。 玄関の上がり口に座り込み、そのまま事情を聞かれる。 美和子が隣に座って肩を抱いて摩ってくれていた。 「家出する様な事はありましたか?喧嘩したとか。」 警官の静かな声が部屋に響いた。 「……いえ。昨夜、家を出る時はいつも通りでした。」 「お母さんが?息子さんが?」 「っ、私です!!スナックで働いていて18時半には家を出ます。一緒に夕食を食べて、ちゃんと寝てって……大丈夫、分かってるって…いつもと同じでした。笑って…いってらっしゃいって…。家出なんて。」 話しながら由巳の中で疑問が浮かぶ。 (絶対?……絶対、家出しないって言える?父親もいない、貧乏で…母親もこんなで……。拓巳が……拓巳が居なくなる。) そう思っただけで身体が震え始めた。 「一人で留守番されていた、帰宅した時、鍵は掛かっていましたか?藤代さん?大丈夫ですか?大事な事ですから…。」 少し申し訳なさそうに警官に聞かれて声を出す。 「掛かって…ました。電気も消えてました。」 「泥棒ではなさそうですね。荒らされた形跡もないし、自分で出掛けて…。」 立ったまま部屋の中を警官は見渡していた。 「この写真の特徴が伝えてありますから、見つけたら無線が入りますからね。」 「はい、はい。お願いします。」 頭を下げて祈る様にしていると、カチャ、と玄関の開く音が聞こえた。 顔を上げるとゆっくりと、警官だと思っていたのに、そこに小さな身長の見慣れた息子のきょとんとした顔があって、思わず立ち上がり頬を叩いていた。 「なにっ……なにしてたの!拓巳!心配かけて!!」 両手で二の腕を持ち身体を揺らした。 「えっ?………友達と……。」 拓巳は叩かれた頬も気にならない程、ぽかーんとしていた。 「馬鹿!心配したんだからね?拓巳が居なくなったら、お母さん……何で働いてんの?一人になっちゃうじゃない……。」 拓巳を抱きしめて一気に泣いた。 膝を突いて、大声でわぁわぁ泣いた。 耳元で拓巳の小さな声がした。 「……ごめんなさい。友達と…その子、塾行ってて終わった後、一緒にいた。」 体を離して見ると、何だか少し涙目だけど嬉しそうな拓巳がいた。
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