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楽しい時間はあっという間に過ぎて、帰りはアパートの前まで送ってくれた。 「ありがとうございました。帰り、大丈夫ですか?少し酔ってみえるから…。」 「駅まで歩いて電車に乗るだけ。大丈夫だよ。」 (まだ離れたくない。) そんな気持ちが由巳の口を動かした。 「あ、あの!少し、そのお茶でもどうですか?少しは酔いが覚めると思うし…送って頂いたし…暑いし。喉、渇いてませんか?」 少しキョトンとした顔をしたが、間を開けて返事が聞こえた。 「じゃあ…少しだけお邪魔しようかな。確かに喉は渇いたし…。」 由巳の顔がぱぁぁっと明るく綻んだ。 アパートの二階の部屋に案内して須賀を部屋に招き入れた。 「狭いし、散らかってますけど、座布団、どうぞ。すぐお茶を…。」 バタバタとして落ち着かずに、端に置いてある雑誌に爪先を取られると、須賀は笑顔でゆっくりでいいよ、と言った。 ワンルームの小さなテーブルに座り、職場の人の話をしながら、須賀の過去の仕事の話も聞いた。 三か月、一緒に仕事をしていたが、須賀の指に指輪はなく、家族の話も聞いた事はなかった。 一度だけ、須賀の母親の話を聞いた。 ーー「専業主婦で就職もしないで結婚したから、働く女性の大変さが理解出来ないんだよね。まぁ、あの世代の女性はみんなそんな感じかな?良妻賢母、そうなるべく教育されているからね。俺は女性が働く事には賛成だけどね。」 それを聞くと須賀自体には家庭はない、指輪もしてないし、そんな風に安心したのを覚えていた。 「あ、もうこんな時間だ。ごめんな?楽しかったからつい遅くまで…。」 「いえ。」 立ち上がる須賀に合わせて由巳も立ち上がった。 「あの、さ?」 「はい?」 じっと目を見つめられて、その空気に僅かな期待を抱きながら見つめ返した。
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