1860人が本棚に入れています
本棚に追加
二度目の治療で入院した2日後、病室に父親が来た。
知らせる所か、連絡も一切してなかったから驚いた。
「私に……あげたからか?」
申し訳なさそうに泣きそうな顔で父が言った。
「関係ないって。お酒の飲み過ぎかと思ったけどそれも違うらしいから。良く分かったね?また興信所?」
ふざけた口調で由巳は笑いながら訊き返す。
「大倉さんにお願いしていた。何かあったら私に直接、連絡して欲しいと。携帯電話、あるしな。」
「あ!いいなぁ。でも病院じゃ使えないしな。拓巳にも買ってあげたいけど、持ってる人って営業とか不動産屋とかのイメージだしね。」
父が出して見せてくれた携帯電話を物珍しく見せてもらう。
かなり小型化されて色も種類が豊富で、通信費が高いから使ってるのはお金持ちの会社員のイメージだ。
まだ由巳には贅沢品だから、周りで持っている人も少なくて手にするのは初めてだった。
オモチャを手にした子供の様に喜ぶ由巳を父親は悲しい目で見ていた。
「はい、ありがと、返す。」
携帯電話を受け取る時、ポツリと聞かれた。
「何か…言いたい事はないのか?恨みでも怒りでも…。」
聞かれて由巳は少し考え込む。
そしてゆっくりと口を開いた。
「答えたくないなら答えなくていいけど、どうしてお母さんのお葬式にも来なかったの?私連絡したよ?」
「敦子にだろう?」
その言葉に今頃気付いた。
「もしかして、お義母さん、言わなかったの?」
信じられないという目を父に向けていた。
「お前が…今、考えたら嫌味だろうな?来なかった父親への。亡くなりましたって葉書、出してくれただろ。あれを見てな、一言書いてあったしな。もう他人だから来なかったんですか?十年以上暮らした人へのそれが人としての態度ですかって。それを見て敦子を問いただした。後で墓参りはさせて頂いた。母さんも肝臓だったんだろ?」
「うん、お酒の飲み過ぎって話してた。同じ道を行くとは…。参るね。」
ハハッと笑い、小さくごめんと謝る。
「まさかお義母さんが伝えないとまでは思ってなかった。ごめんなさい。」
「いや。あの頃、親戚の集まりがあると敦子は肩身が狭くてね。どうしたって奈津子と比べられて、愛人だった癖にと言われて、少し気持ちが落ち着かない時だった。病院で薬をもらってた。俺の行動に神経質になっててああいう病気は時間が掛かるらしくて、由巳にも会いに行ったら何か暴走するんじゃないかって不安もあって行かなかった。」
病院で会った義母を思い出すと、確かに落ち着きなく一人で大騒ぎしていた印象だったのを思い出していた。
「今も?」
「だいぶ落ち着いたよ。…何か出来る事はあるか?」
優しい声に首を振った。
最初のコメントを投稿しよう!