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今夜、私は川へ行く。川は静かに流れる音だけが響き、夜であるにも関わらず何故か光り輝いている。
今夜の月は綺麗だ。美しいという言葉が相応しい。月明かりが私の歩く道を照らしている。まるでゴールを示すかのように、私の一歩先を常に照らしている。
今夜は星も綺麗だ。都会では味わえないような、天然のプラネタリウム。こんな美しい世界は一体誰が作り出したのだろう。一つ一つの輝く星が、存在を確かめ合うように、寄り添い、高め合い、輝きと共に生きている。
気持ちのよい風が吹いている。静かな風が、私の体を包み込んでくれる。透明なベールを羽織り、私は月の道標に従い、川へと歩く。
ああ、美しい。ああ、なんて心地良いのだろう。この自然の中で、ふわりと浮かぶような気持ちのよさ。半分地に足を着いているような大地の暖かさ。このような感覚は今まで感じたことがない。
あの消えてしまいそうな星は、大丈夫だろうか。ちらちらと瞬きするように不安げに、しかし、誰かに見つけてもらいたそうに必死で輝いている。きっとここから遠く離れた場所で、輝いているのだろう。星たちが無数にいる中で、煌煌と光る星もたくさんいる中で、何故あの星に惹かれたのだろう。いや、あの星と目が合ったのだ。
私もあの星と同じなのかもしれない。毎日生きることに必死で、毎日目の前のことだけで手いっぱいで、それでも前を向かなくてはと毎日頑張ってきた。終わりのない仕事と言う暗闇の中を彷徨い続け、いくつもの壁にぶつかり、捕らえて離さない獣に噛みつかれながら、孤独に走り続けた。
この美しい世界は、そんな私へのご褒美なのかもしれない。忙殺される日々の中で、私はこの心地よさを忘れていたのかもしれない。
そのとき、私は自然と笑顔になれた。こんなに自然に、素直に笑ったのなんて、いつぶりだろうか。毎日愛想笑いし続けたせいで、自分の本当の笑顔なんて忘れかけていた。
ああ、あの星は私だ。私は必死に輝いて、誰かに見つけて欲しかったのかもしれない。その辛さも、この心地よさに身を委ねれば忘れられるだろうか。この美しい世界でふわりと浮かべば、この苦しみも消えて無くなるだろうか。
こぼれた涙は、流れ星となって、消えた。
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