Separately  それぞれ   過激表現ありません。

52/103
前へ
/103ページ
次へ
34.☑  家を出た時に思い知った。  反対していた由宇子に、無理やり単身赴任を決めて俺が赴任先に旅立った あの日、多少の違いはあるにせよ由宇子もまた、今の俺のように寂しい想いで いたであろうことを。  由宇子、ごめん。  君の不安を思い遣ることのできない、思い遣りのない夫だった。  心の中で元妻に詫びた。  もう怒りは消えていた。  ただひとつ心残りがあった。   美誠(みま)と智宏に、ただいま……父さんやっと帰って来た。  ずっと会えるのを楽しみにしてたよ。  そんな台詞を考えて帰って来たのに言えなかった。  それが切なく、悲しかった。  ひとまず今夜は引き続きホテルに宿泊して、明日は不動産巡りだな。  ホテルに向かう電車の中で俺はいつの間にか泣いていた。  泣いたのは子供の頃以来だなと思った。  単身赴任には、落とし穴があるとは聞いていた。  まず由宇子が言っていたように、相方の浮気。  気楽な独り暮らしが捨てがたくなる。  単身終えて帰ると父親の居場所がなくなってる。  いろいろ聞こえてきたが、俺の耳にはまさに馬耳東風だった。  妻の浮気については全く心配していなかった。  彼女は独身の頃、それはそれはモテた。  俺はそんな中、他の男どもを跳ね除け勝ち取った。  モテるが浮気症な所のない女性だ。  それに家庭的で子供たちをとても愛していた。  だから彼女の異性関係は安心していられた。  自惚れもあった。  彼女は俺に惚れていると思っていたから。  そして俺自身の浮気についても、ほぼほぼ走らない自信はあったし 元妻以外の女に惚れる可能性はなかった。  そう、俺が由宇子に惚れていたからだ。  油断して間違いを犯したとしても浮気止まりなら許してくれるだろう とも頭のどこかにあったかもしれない。  だって元妻は俺に惚れているからと。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

416人が本棚に入れています
本棚に追加