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4 仕事仲間オットー
半ば嘘八百な場当たりでオヴェストに『聞き込みがんばります』的な事を言い逃げしたリリアナだが、どっちかというと4人の令嬢の情報が欲しいのである。それが自分に与えられた仕事らしいので。
そうなるとやるべきことは決まってくる。まずは接触。残りの3名とはまだ顔も合わせていないのだ。特に問題を起こさないから、オヴェストと違って。
かと言って、こちらから呼ばれてもないのに部屋に行くことも出来ず、無駄に客室棟をウロウロして終わった。きっと過去18年で一番歩いたであろう、少し腰にきた。
次に思い付いたのは、裏取りだ。本人達が駄目なら周囲から人となりを聞き出そうと、メイド達に何気なく話を振ってみた。しかし、彼女達はプロフェッショナルであった。客人の個人情報となりえそうな事は口を割らない。
酒場では酔っ払い達が聞いてもないのに、女房のヘソクリがどこそこにあっただの、どこぞの店主が客に手を出して野犬に尻を噛まれただの、訳のわからない情報を垂れ流すというのに。
「参ったな」
リリアナは頭をかかえた。
確かに、妃候補を選ぶ懇親の期に、誰かの足を引っ張ったりもしくは上げたりするような行為は、メイド達にも危険なことで信頼も職も失う。そりゃ、安易に下手なこと言える訳がない。
じゃあ、どうすればいいのだろう。
自分の役目は、まさにソコを掘り出さなくてはいけないというのに。
「やー参った! これは確かに難しい!」
ヨロヨロとした足取りで、疲れて重い足取りがさらに重量を増す。
チェルソンに、三日に一回は報告するように言われて、今まさに就業時間を終え、謁見の間に向かっているところだった。
気持ちの重さからなのか、なかなか部屋に辿り着かない。と、思ったら曲がる場所を間違って、無駄に歩いてしまった。
余分に歩いて戻ったり、ここかと曲がってみてまた違ったり。今度から考え事をせずに歩こうと、なかば半泣きでたどり着いた。
「す、すみませんでしたーっ。遅くなりましたーっ」
扉にすがり凭れるようにして謁見の間に入り、深々と頭を下げれば、「遅いっ!」と鋭い声が投げられた。
そりゃそうだ。ただの平民が、多分いやきっとかなりお偉いさんと思われる人を待たせたんだから。
だけども違和感を感じて恐る恐る頭をあげてみると、謁見の間の椅子に座り行儀悪く足をテーブルに放り出しているのは、チェルソンではなかった。
「おや?」
リリアナは瞳をシパシパと瞬かせ、首を傾げた。
「チェルソン様、若返りました?」
チェルソンはどこからどうみても50代くらいの、穏やかなほほえみを常に浮かべたダンディな男性である。だが今、目の前に態度デカく座ってこちらを睨み付けているのは20代くらいの男で、濃紺のフードを目深にかぶって感じが悪い。
「俺はチェルソンの代理だ」
「あ、そうなんですか」
(それはよかった。優しいチェルソンさんを待たせたかと思うと、申し訳なさが丸一日引きずってしまうとこだった)
「チェルソン様は、どこか具合でも悪くされたんですか?」
「あの人は今日も元気だったよ。業務時間外まで働かせる訳にいかないだろ」
「そうですか、そうですよね。ちなみに私も現在、業務時間外です」
「……」
ニッコリと、他意などないけどほんとは他意だらけな心中を隠した笑顔をリリアナが向けると、男は一瞬沈黙したのち鼻で笑った。
「それを言うなら、俺も」
「確かに」
リリアナは、手をポンッと打って断りもなく男の正面の椅子を引いて座った。
その様子を見届けてから、男はテーブルから足を下ろして真っ正面からリリアナを睨む。
「君さあ、平民の出だよね、確か、」
「あ、酒場です、『ビアーノ』っていう、酒を薄めずちゃんと客に出してる優良店ですよ」
「……あ、そう。店はどーでもいいんだけど……。俺のこと、知ってる?」
「ん?」
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