やまびこ、学校へいく

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学校へ着いてから、授業が始まるまで、 30分くらいありました。 クラーク博士と私は、みんなの前で、 やまびこを紹介しました。 他の教室からも、お友達が見に来ました。 私が、やまびこを、 先生の机の前に立たせると、 みんなそこに集まってきました。 「ええっと、… この子は、やまびこです。 おさびし山から、私たちと友達になるために、 やってきました。」 私は言いました。 学校のみんなは、そりゃあ、やまびこに、興味津々でした。 「わあ、子犬みたいで、可愛い!」 エリーが、感嘆の声を上げました。 「トトロみたい。」 若菜が、そう言いました。 「こんにちわ。やまびこ、握手して。」 ちゅー太郎が言いました。 やまびこは、やわらかくて、毛がいっぱいの手で、 一通り、みんなと握手しました。 握手をするたびに、やまびこの耳が、嬉しそうに、ふわふわ揺れました。 私は、まるで、お花の花びらみたいだと思いました。 「ねえ、やまびこは、普段は、どこに住んでいるの?」 大臣が、尋ねました。 「オイラのうちはねー、 おさびし山の崖の向こう、岩がごろごろしていて、滝の流れている辺りだよ。」  やまびこは答えて言いました。 「ああーあの桟橋の向こうかー」 誰かが、言いました。 「あの渓谷、滝が流れていて、虹がかかっていて、きれいな場所だったよね。」  私は、山奥の滝を見に行った時の事を思い出して、言いました。 「我々が、美しい景色を眺めると、 感動するのは、(たましい)が、イデアを覚えているから。」 やまびこは急に、真面目くさった顔で、おごそかに言いました。 みんなわけが分からないようでした。 「イデアって何?」 大臣が、不思議そうに尋ねました。 「変化しない真の姿ってことだよ。 僕たちはみんな、この世界に生まれる前にイデアを見ていたんだ。」 やまびこはそう言いました。 ですが、誰一人意味を理解する者はいませんでした。 「やまびこは “てつがくしゃ” だから。」 クラーク博士が言いました。 「悟りを開いているの。」 私は、説明するつもりで言いました。 「ねえ、何か得意なことを教えて。」 エリーが言いました。 「エリー、そりゃー、やまびこの得意な事と言ったら、 真似っこする事に決まってるじゃないか。 毎日、僕たちの言うことを真似してるんだから。」 クラーク博士が言いました。 「そーう! オイラは真似っこする事が大得意なんだ。」 やまびこは嬉しそうに言いました。 「じゃあ、やってー」  みんなは一斉に頼んできました。 やまびこは、一回、咳払いをしました。 そして、言いました。 「さーて、 今、みなさんが、静かになるまでに、 2分と15秒、かかりました!」  教室は、一瞬で、しーんと静まり返ってしまいました。 みんな、本当の先生が言ってると思ったのです。 でも、次の瞬間には、やまびこが言っているのだと、分かりました。 「乙女先生の声、そっくりだね。」 エリーは言いました。 「本当の先生が言ってるのかと思ったよ。」ちゅー太郎は冷や汗をかきました。 「そんなわけないだろう?」 和夫が、笑って言いました。 さーて、 今、みなさんが、静かになるまでに、 2分と15秒、かかりました! ...これは乙女先生の口癖で、 先生は、私たちがなかなか静かにならない時、本当にいつもこんな風に言うんです。 「じゃあ、オレの真似してみて。」 ちゅー太郎が言いました。 「カエルぴょこぴょこ  三ぴょこぴょこ 合わせてぴょこぴょこ 六ぴょこぴょこ。」 やまびこは、簡単そうに、真似して、ちゅー太郎の声で言いました。 「カエルぴょこぴょこ  三ぴょこぴょこ  合わせてぴょこぴょこ 六ぴょこぴょこ。」 あんまり上手だったので、そして、 そっくりだったので、みんな拍手をしました。 「ちゅー太郎、でも、お前の場合は、 カエルじゃなくて、ネズミがちゅーちゅー 三ちゅーちゅー、だな。」 クラーク博士が、ちゅー太郎を、からかうつもりで、言いました。 ちゅー太郎は、家で、ねずみを飼っているんです。 それから、やまびこは、山富士先生の真似っこを始めました。 私たちは、一通り、やまびこのもの真似を見て、 大笑いました。 それはとても楽しいものでした。 やまびこは、私たちが遠足で、おさびし山に遊びにきた時など、 よく私たちの会話を聞いているのです。 だから、誰がどんなことをしゃべったか、みんな覚えているのです。 そろそろ一時間目のチャイムが鳴りました。 やまびこは、勉強をするつもりはないから、帰る、と言いました。 私たちは、惜しく思いながら、 やまびこを教室の外まで送っていきました。 やまびこは、みんなの方へふり返って、 ほとけのざやぺんぺん草を両手に持って振りながら、 (例の謎の草)  帰って行きました。 しばらくして、 何も知らない乙女先生が、教室に入ってきました。 「あら、みんな、今日は、にやにやして、どうしたの?」 乙女先生は大変不思議がって、そう尋ねました。 やまびこは、大人には見えないのです♪
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