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「君がこの間、学校をサボってあの問題児と会ってたっ、てね」
「………!」
私はそれを、静かな驚きとともに受け止めた。疑問や反論はすぐにいくつも湧いて出たが、いつものような機敏さはそこにはなかった。言葉が溢れてくるのが止まらない。とめどなく口の中で増える言葉のどれも、つっかえたみたいにすぐに出てくれなかった。
随分久しぶりに、私はどんな声でこの皮肉の効かない会長の言葉に応えればいいのか、見当がつかなかった。
頭がうまく働いてくれなかったのだ。
私が反論せずに、パソコンに向き合ったその指だけが止まったことを確認してから、少しだけ楽しそうに続ける。
「ダメだね、風紀委員長ともあろう君が、問題児と仲良くしてるなんて」
「………いや、それは」
けれど、出てきた言葉はそんな、弱々しいものだった。
水を得た魚みたいに、花島の言葉は跳ねていた。
「言ったろ?そして、君も言ったはずだよ。………あんな問題児、って」
――はっとした。
そうだ、その通りではないか。
私は確かに、風紀委員長になってすぐの頃、彼女の話を聞いて、そう言った。どうしてかそのことをいつの間にか忘れていた。
彼女のことを知らなかったから、では済まない。
だって私は、一度彼女を軽蔑するような呼び方をしている。これでは、目の前の男と同じだ。
閉じた口の中で舌の位置が曖昧になって、喉の奥が渇いて、花島に言い返すための声色が遠ざかる。どうしよう、どうしすれば、何と言えばいいのだ、と巡る焦燥は、ある記憶に行き着いた。
「違うわ、私は……」
けれど、その記憶が導いてくれる声では、この会長を言い下すことはできないだろう。
それでも何か言葉を紡がなければ、私は私の全て、新しく抱いた感情を否定することになる。それだけは嫌で、何が違うというのか、私はその二言を発してから……それに気づいた。
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