【秘密にしてるの】

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 【秘密にしてるの】

     【秘密にしてるの】  ―――で、まったく入る気はなかったんだけど、そんないきさつがあって、結局仮入部ってことになっちゃって……。  しばらくそのままの姿勢で待ってみた。しかし、やはり返答はなかった。  観音さまの祠から漂うお線香の微かな香りを吸い込みながら、かがませていた上半身をベンチの背にあずけた。そして、あげた顔で考える。  どうしちゃったんだろ……。  身代寺の緑林の間から覗く空は、昼間の青をすでに夕焼けが浸食していた。  目に映るその(くれない)のグラデーションが、わたしの思考をもぼかし、意図せず、徐々にあのころの記憶を―――。 「……あたしもお姉ちゃんがほしい」  思いきってそういったのは、祖母に手を引かれながら境内を歩いているときだった。紅葉が地面を覆う肌寒い日だったことを覚えている。 「どうして?」  優しい問い返しに、わたしは答えることができなかった。幼稚園の友だちに姉がいる子が多かったから。……それが理由だった。しかし、他人さまをうらやんだり妬んだり(もっと簡易な言葉だったと思うが)してはいけないと、母に常々いわれていたわたしは、どうしてもいえなかった。  そんなうつむき顔へ続けられた祖母の言葉は衝撃だった。 「宵ちゃんにもいるよ、お姉ちゃん」  見あげた目に映った面は、まっすぐ本堂に向いていた。 「どこに!? どこに!?」   はしゃぐわたしに、さらに衝撃は続いた。 「……天国にさ」 「てんごく……?」 「そう。宵ちゃんのお姉ちゃんはね、宵ちゃんが今いるこの世界にやってくる前に、死んじゃったんだよ」 「しんじゃった……」 「そう、宵ちゃんが生まれる二年ばかし前にね。  ……でもね、お願いしていれば……そう、身代寺の仏さまにお願いしていれば、いつか必ず逢えるわよ」  そんなのやだ! 今すぐ逢いたい! お姉ちゃんと遊びたい! などというわがままは、小さな口から飛びださなかった。それはわたしにさげた祖母の顔に、いいつくせない寂寥を、幼いながら感じたからではないか……。  なぜ祖母は、わたしにとって一番近しい存在である者が死んでいる―――しかもこの世界を一度も目にすることなく―――という、幼子にはショッキングなことを伝えたのか……。
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