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そのご利益の、しっかりとした由来はあるらしいが、とどのつまり、その祈願が一番参拝者を集めやすいからでは……。と、罰あたりな想像を浮かべてしまうのは、わたしがすれてしまったことの証か……。
このお堂から道は二つにわかれる。若干鋭角気味に左に曲がる道をいけば、山門に出る。両親が働くお蕎麦屋はその斜め前、いわゆるメイン参道にあった。しかしわたしの足は、微かな曲線を描くそのままの道なりを選んだ。時間はまだ余裕がある。
この道にもメイン参道ほどではないが、お蕎麦屋や土産物店は並ぶ。水がわく場所だからということか、昔から身代寺はお蕎麦でも有名だ。
敷地内の地図が隅々まで頭に入っているのは、幼いころから足しげく通ってきているから。家から歩いてこられる距離でもあるし、両親や、以前までは祖母も参道で働いていたからということもある。でも一番の要因は、ひとり物思いにふけることが好きな自分には、もってこいの場所だったから……ではないか。だから小学校の高学年にもなると、両親や祖母の手を離れ、ひとり敷地内を歩きまわった。四季折々どころか、微細な天候の変化でも顔色を変える風景が、わたしを飽きさせなかった。それは今でも変わってはいない。
それに、わたしのそばにはいつも……。
だから内気な性格から友人が少なくとも、寂しいことはなかった。
しかし、高校はバスと電車通学になる。地元の中学に通っていた今までよりも、ここへ足を運ぶ時間は短くなってしまうだろう。それは寂しかった。
石畳が終わり“身代寺通り”にぶつかる。さすがに寺の敷地外では車の音は防ぎようもない。だが、都内の一般道に比べると交通量は断然少なく、騒音や排気ガスに顔をしかめるということはない。
このバス通りを左に折れいくと、丁府駅行きのバス停が見えてくる。そこがメイン参道の入り口でもある。
これから毎朝夕、ここの立つのか……。
乗り遅れないようにしなくちゃ……。
混んでないといいな……。
終点かつ始発でもあるこのバス停のポールを眺めながら、そんな未体験への緊張を浮かべていると、さっそく丁府駅行きがすべり込んできた。わたしはそそくさと参道に入っていった。
参拝客の姿はすっかり消え、両サイドに並ぶ店々もほぼ暖簾をおろしている。明りを灯しているのは、二か所あるジュースの自販機のみ。
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