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平日の身代寺参拝者はほとんどがお年寄のため、店は開くのも早いが、閉めるのも早い。その中で、両親が営む店の営業時間はほかに比べると長いようだ。それでも六時には完全に閉まる。
紅色に染まっていた空に墨色が滲んできた。わずかな間にあたりは陰を濃くさせている。
当然、親と一緒でなければ帰れない歳ではない。ただ両親は車できており、帰りがけにスーパーによると決まっている今日、同行すれば好きな料理をねだれる。それに、歩いて帰れる距離とはいえ、座っているだけで運んでいってもらえるならば、それに越したことはない。
親と一緒なんかうっとうしい!―――同年代の子たちからはよく聞かれる台詞。だがわたしにはあてはまらなかった。祖母を含めた四人家族の家は仲のよい家庭だし、親を煙たがる理由など、自分の中のどこを探しても見つからない。
「変わってるね」
両親との関係について話していたら、数少ない友人のひとりからそういわれたことがある。そうかな~? と思い、姉に相談してみたら、
「まったく変わってなんかいない。とてもラッキーなことよ」
といわれ、嬉しかったことがあった。
木々が鳴った。
そう思う間もなく、
あっ……。
咄嗟に左目を押さえた。
山門から流れてきた少し肌寒く感じる風が、塵を運んだ。
うつむいた顔で、スカートのポケットからハンカチをとりだす。瞬きをしながらやわらかく目をこすると、幸い異物はすぐにとれた。
今一度残る涙を拭き、目をあげると、
ん……。
今度は人影が飛び込んできた。
まっすぐ参道をやってくるひとりきりのその人は、山門を背に、すらっとしたシルエットを見せていた。
大きなストライドとすっと伸ばした姿勢が、若い女性だということを表現している。
参道の店で働く人たちに、お世辞にも若いと形容できる人はいない。であれば参拝客か……。
こちらもゆっくり歩を進める。
長い髪を揺らしながらくる彼女は、まるでわたしの存在など目に入っていないかのように、まっすぐ前に顔を据えたまま。
恋愛祈願でもしにきたのかしら……。
彼女との距離がみるみる縮まる。
……似てる……。
その思いがわいた途端、
でもそんなこと……。
急速に早まった鼓動を感じながら、
どんな人なんだろ……。
同時にかき立てられた興味。
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