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少子化の影響か、近年共学になったこの白菊学園は、もともと女子校として創立された。だからというわけでもないのだろうが、男子生徒の数は女子に比べると遥かに少ない。それゆえ方々で舞う勧誘の声や、笑い声、はしゃぎ声は、ほとんどが甲高いものだった。
土曜日の今日。帰宅し昼食をとったあと、久しぶりに身代寺を散策しようか……。
そんなことを考えつつ、校庭の人波を縫って歩いていたわたしの目に、ひときわ生徒の群がる一角が入った。そこはまわりとは違い、大声を張りあげての勧誘などはせず、淡々と仮入部の受付をしているようだった。
ちょっと興味を覚え、人垣越しに背伸びしてみると、机に向かった数名の受付係の後ろに、立派な一枚板が校舎の壁を背にしていた。それに刻まれた名前を見て、
ああ……。
学園案内の冊子に載っていたクラブ紹介の一ページが、すぐに思いだされた。
《白菊タイムス》
なんでも、全国高校総合文化祭に毎年出場して、毎回上位の賞をもらったり、東京だけでなく、全国の学校新聞コンテストなんかでも多数受賞している―――というようなことが記されていた、ように思う。とにかく優秀なクラブなのだろうから、これだけの入部希望者が集まるのも納得だ。
“わたしは興味ありません”的オーラを発していたつもりだったのだが、校門に到着するまでに結構な数の勧誘にあった。そのたびにうつむきながらやんわり断るのだが、中にはグイグイ系のところもあり、一〇分ほども粘られたときは泣きそうになった。
やっとの思いで、もうすぐ校門というところまでたどりついたころには、心身ともぐったりとしていて、うつむきは上半身全体に及んでいた。
しかしもう数歩で自由の身になれる。そう自身を鼓舞し顔をあげたとき、
あっ!
思いもかけない横顔が視界に飛び込んできて、わたしの足をとめた。
それはあの夕暮れ、身代寺の参道ですれ違った彼女の……それだった。
着ているものこそ制服と変わっていて、あのときよりも多少大人っぽさはなくなっている。が、網膜に焼きついた顔の記憶は、自信を持って人違いを完全否定していた。
でも、どうしてここに……。
緊張をともなった興奮が、答えなど出るはずもない疑問を噴出させた。
また一方で―――、
もしや、疲労のための幻覚? それとも立ったまま寝て、夢を見ているの?
と、半ば真剣に考えもしていた。
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