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そんなわたしの背中に、
「いらっしゃーい!」
という大声が突き刺さり、我に返った。
ふり返ると、三年生の印である紺のリボンタイを締めた女子生徒が、メガホンを片手に立っていた。
「よくぞここで足をとめたわ! そんなあなたは今後三年間、楽しくてハッピーな学園生活を送れること間違いなし!」
髪をベリーショートにしている彼女は、決して大柄というわけではないが、顔のパーツすべてが大げさなつくりになっているためか、その身からは迫力が感じられた。
「いえ、わたしはべつに……」
という間も与えず、彼女はわたしの背を押し、道の端に設えた受付机の前に連れていくと、強引に座らせた。
予想もしなかった成り行きに、うつむくことさえ忘れていたわたしの目は、対面にかけているあの彼女のそれとぶつかった。その刹那、彼女の目が見開かれた。それはまさしく、わたしと同じように驚愕を受けた表情―――のように感じた。
どうして……?
もしかして、わたしのこと覚えていたの……?
いや、そんなことはない。あのときの参道で彼女がわたしに視線を送ったようすは、まったく感じられなかった。
しかし彼女は、すぐさまそれを困惑顔に転嫁させ、
「強引にこんなことしちゃ悪いわよ」
と、メガホン先輩に向けた。
その言葉が、またしてもわたしに息を飲ませた。
この声も……。
「ごめんなさいね」
いいながらわたしに戻した彼女の顔には、もはや一瞬前の驚きの色は欠片も見あたらなかった。
わたしの見間違い?……勘違い?
「だって、うちに興味があったから立ちどまったのよね~」
メガホン先輩はわたしの肩に手を置き、猫なで声を出した。
どうしてだかわからないが、わたしの顔は意思とは無関係に上下に動いていた。
それは少なくとも、猫なで声に滲んでいた圧力に屈したから―――でないことだけはいえる。
「ほんと?」
正面の彼女の問いかけに、また頷いていた。それで彼女の困り顔は笑顔にすり替わり、それを見たわたしの心臓は、ますます高鳴った。
「うちのメンバーになれば、占いが無料で受けられる特典つきよ」
ふいに彼女の右手から声がした。
視線を流すと、机一つぶんを離して、やはり受付係らしい女子生徒が座っていた。
驚愕のため、今までまったくわたしの意識に入っていなかった彼女は、二年生であることを示すグレーのリボンタイが首に。
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