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「あ、はあ……」
おかっぱ頭で青白い肌をしている彼女は、こっちに顔をふることなく、机の上に広げられたタロットカードを注視していた。
「タロットでも星座でも血液でも」
やはりふり向くことなく、おかっぱの二年生は血色のいいとはいえない唇を動かした。
「結構あたるのよ、彼女の占い」
正面の彼女が笑顔のままいった。
「あ、はあ……」
すると今度は背後から、
「タダー! チラシ配りの声が小さーい!」
メガホン先輩のメガホンを通した怒声が轟いてきた。
と思ったら、左側から、
「しとやかそうでいい被写体だ、うん」
という感嘆に、
“カシャッ”
シャッター音が続いた。
「ノゾキくん、勝手に撮っちゃ失礼じゃない」
「いいじゃないか。うちのブースにきた数少ない希望者だ。記念としてさ」
悪びれるふうもなく答えた彼は、紺のネクタイを緩めたワイシャツ姿を、少し反らした。
タイの種類は男女で違うが、その色で学年をわけているのは一緒だ。
「だからって……」
彼女の言葉を意に介すことなく、彼は高価そうなデジタルカメラ(一眼レフというのか)の画面を見て、満足そうな表情を浮かべている。そして、二枚目の領域に、わずかに踏み込んでいるといってもいいその顔を彼女に向けると、
「なんだかアキノ、彼女の横顔、フィルター通すときみに似てるな」
えっ……アキノって……。
「プリントしたら進呈するよ。それにうちに入ったら、何枚でも撮ってあげる」
そういい残して、彼は長身をひるがえした。
すかさずメガホン先輩の大声が飛んだ。
「ノゾキー! どこいくー!?」
「取材に決まってるじゃないか。新勧のようすの」
カメラを掲げながら飄々と答えた彼の腕には、茜色の腕章が巻かれていた。
ということはここって……。
戻したわたしの目は、受付机の前面に貼られた模造紙の字を、今さらながらとり込んだ。
アキノ―――という彼女が座る前には「真実」、おかっぱ二年生のほうには「新報」が、黒マジックで大きく書かれていた。
真実新報?……新聞部?
わたしの脳は、すぐに学園案内のページを開いた。
が……どこにもそんなクラブの紹介を見つけることはできなかった。
「じゃあさっそくなんだけど、活動日とおおまかな活動内容説明するわね」
彼女―――アキノさんのやわらかな声が、わたしの意識を戻した。
「はい」
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