【えっ!? 今のって……】

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 【えっ!? 今のって……】

     【えっ!? 今のって……】  ……ねえ、どうしたの?  ん?……べつに。  もしかして、忙しかった?  ううん、そんなことないわよ。  でもなんか―――。  そんなことないって。……もうすぐね、入学式。  え、うん……。  なに? 不安?  ……うん。まさか受かるなんて思ってなかったとこだし……。  まだそんなこといってる。まぐれで受かるような学校じゃなかったんでしょ?  うん。  だったらあなたの実力じゃない。もっと自信持って!  うん……。  だから、そんな弱々しい声出してちゃだめよ。  うん……。  でも、高校は中学以上に勉強大変だから、一層頑張らなくちゃだからね。  うん……。  そのかわり、楽しさも中学以上! だから肩肘張らずにエンジョイ!  うん……。  大丈夫、私がついてるんだから。  うん。  あっ……。  えっ、どうしたの?  ちょっと……用事思いだしちゃった。  ああ……。  じゃあ、そろそろ戻るわ。  うん。  じゃあ、またね。  うん。またね。  静かに目を開けると、いっとき意識の外にあった沈丁花の香りが漂ってきた。  木のベンチに座ったまま、ゆっくりと首をめぐらせてみる。  あたりに人影はなく、すぐ近くに林立する延命観音の祈願旗だけが、四月の穏やかな風に揺れていた。  どのくらい話していたか……。  腕時計に目を落とすと、両親の仕事が終わるまでまだ間がった。  暮れなずむ空を見あげながら、しかし自然と腰があがったのは、心地よい風にあたりながらぶらつくのもいいと、躰が判断したからだろう。  観音さまが祀られている祠に手を合わせると、足は石畳の緩い坂道へ向かった。  左右に生い茂る木々からは鳥のさえずりのみが聞こえ、人工的な音は微塵も届いてこない。それは広大といってもよい身代寺(しんだいじ)敷地内ならどこでもいえることで、さらに、ところどころからわく清水によってつくられた池や小川のせせらぎが、ここが都内であることを忘れさせる。  坂道をしばらくいくと、敷地内に五つほどあるお堂の一つ、身沙大王(しんさだいおう)堂に到着する。この水神をお参りすると恋愛成就に効果があるといわれ、休みの日ともなると、お堂のまわりには若い女子たちを多く見かける。 「恋愛祈願」―――神社ではよく聞かれるが、寺院では珍しくはないか?
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