価値観

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「…おい、藤高」 「何?」 友人の峰元が仁王立ちして、俺の前に立ちはだかるのをチラッと見上げれば、予想通りと言うか鬼の様な形相。 「…アイツ…また違う女と遊んでるぞ…」 「そっか。また違う女なのか」 やれやれ。 肩を竦めて、今しがたまで見ていた雑誌に再び、視線を落とすと峰元の震える空気が伝わってきた。 「藤高っ!お前そんなんでいいのかよっ!アイツとお前と付き、」 其処まで言い掛けて、峰元はハッと自分の口元を覆う。 馬鹿が。 眼だけでそう言えば、一応それは伝わったらしく、ゴメン…と呟く声。 周りを見て欲しい。此処は教室で、昼休みなのだからクラスメイトだって普通に居ると言うのに。 「峰元、お前それだけ言いに来た、とか?」 「いや…だってさぁ…」 アイツが… 空いている椅子を引っ張り出し、俺の前に座るとムスリと唇を尖らせる友人に俺は仕方無いと口元を綻ばせた。 「いいんだよ」 そう一言だけ、伝えると峰元は今度は眉根をこれ以上無いほどに寄せるとフンっと人の机の上に顔を伏せる。 雑誌が読めないんだけど。 「…お前って…」 「うん?」 「本当に分かんねー…」 「うん」 其の言葉、褒め言葉としていただくよ。 「だって…お前…アイツと…馬原(まはら)と…付き合ってんだろ?」 今度は俺にだけしか聞こえない声。 ふっと笑って見せれば、友人は益々しかめっ面を拝ませてくれる。 「峰元、今日は一緒に帰ろうか」 「……お前が可哀想だから帰ってやるよ」 失礼な。 けれど、言ってろと笑って見せる俺に、峰元も仕方無いやつと苦笑いを見せた。 ***** 峰元と下校中、どっかで何か食べようと言う提案に断る理由も無く、同意。二人して何を食べようかなんて、話していると、 「晴樹(はるき)っ」 少し前でぶんぶんとこちらに手を振っている茶髪の男が居た。 「あ…」 「…アイツ…」 隣で峰元が険しい顔を隠そうともせず、声にまで棘を含ませる。其の間にも『アイツ』は俺達の前まで早足で近づくと、ニッコリを微笑んだ。 馬原翔(しょう)、俺の幼馴染。 「晴樹っ、俺今日ちょっと一緒に帰れそうにないんだぁ。ゴメンなぁ」 あぁ、今日も綺麗な笑顔。 謝罪の言葉とは反対に、ちっとも悪びれてないこの喋り方も大好きだ。 「分かった。俺は峰元と帰るから」 「夜は家行く、宿題見せて」 デカイ図体なのに、おねだりまで愛らしい。 軽く頷けば、隣では峰元が心底嫌そうに顔を歪めてるけど。 「じゃ、またな。晴樹、峰元も」 ヒラリ。 手を振りながら、翔が一目散に掛けていく先には女の子が一人。 見た事ある。確か三年の先輩。 くるっと纏めたハニーブラウンの髪が愛らしく揺れている。 そうか、次はあの人なのか。 「…高藤…あの人だぜ…次の女」 「みたいだな。可愛い人、だよな」 「…あの…今更だけど…………お前って…本当に馬原と…」 「うん、付き合ってるよ」 本当に今更。 何言ってんの?笑って見せると、複雑そうな顔を見せる峰元は其の侭溜め息。 「お前って本当分かんねー…」 「俺の考えてる事分かったら、お前エスパーだって」 さて、何を食おうか。 俺の考えてる事、分かる?峰元。 「…じゃ、行くか。お前何食う?」 「やっぱり峰元はエスパーじゃないな」 「は?」 さっさと歩き出した俺に峰元の間の抜けた声が後ろから聞こえた。 ***** ヤバイ… 腹いっぱいでちょっと眠いかも。 家に帰って風呂まで入って、夕食も済ませて。 部屋に帰ったら、既に俺の瞼は閉店前。学校帰りにラーメンも食った腹は限界までに膨れ、げぷっと喉まで鳴る始末。 大器晩成型だった俺の成長期はただ今絶頂期。 いくらでも入るんだもんなぁ、腹。 ベッドでゴロゴロしてれば眠くなるのも必然的。寝る子は育つってヤツだ。 宿題やんねーと… 動きの鈍った身体と脳を何とか動かし、机についてペンを動かす。 早くしねーと…翔がもうすぐ来るかも… 幼馴染で、俺の恋人の翔。 もう付き合い始めて一年位になる。 ちっちぇ時から俺はずっと好きだった。いや、ホモとかゲイとかじゃなくて、何か知らんけど気付いたら翔しか好きじゃなかった。 ずっと翔が隣に居たし、困ってれば助けてくれたし。 そんな中、去年二人でゴロゴロ休日を過ごしていた時、行き成り翔が俺に言ってきた。 『晴樹は俺の事好きだろ?』 ニヤリと笑う姿に、一瞬呆けたものの、別に否定等せずに俺は頷いた。 『うん』と、一言だけ。 気持ち悪ィとか言われるかとも思ったけど、その時はその時だ。好きでいる分には構わないだろうと結構自分でも賭けだったと思う。 でも、 『じゃ、付き合おうか』 あっけらかんとした翔からのお付き合いOKの返事、で今に至る。
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