赤い糸

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初恋は、きっと彼だ。 駅で定期入れを落とした日。 『あぁ、さっき学生が届けてくれたよ。本当についさっき、君と同じ制服だったから学校が一緒じゃないのかな』 そう言われて調べてみれば、地味そうな男を見つけた。 乗降する駅は違う。途中までこそりと眼をやるも、至って普通の男子高校生だ。 すぐに興味も無くなるだろうと思っていたのに、何故か校内でも見かける事が多くなっていた。 一人を好むのか、誰ともつるまない。 でも、姿勢が良いな、だとか、花に水やってる…、だとか、こんなに見ていても向こうが俺に気付く事は無いんだな、だとか、そう思っていた頃。 熱が出た。 授業中の発熱だったからそのまま保健室へと向かい、保健医から促され、取り敢えずベッドへと寝転んだ。 親御さんに連絡してくるからと保健医の出ていった保健室に俺一人。 久々の熱だからか、しんどさはマックス。 気持ち悪さまで感じる。 低く唸るように身を丸め、呼吸をしっかりと取り込む。 クラスの女子が着いてこようとしていたけれど、一人で良かった。居たら面倒だったな、なんて思っていた時、 『熱、あんの?』 『…っ、は…?』 『これ冷えピタ。投げとくから』 ほんの少しだけ開いたカーテンから一瞬見えた顔は確かに彼だった。 一度目は定期。 二度目は冷えピタ。 彼は俺を助けてくれている。 こんな偶然あるのか? 熱に朦朧とされつつも、あの平凡な顔が頭から離れない。 まるで封蝋されるみたいな、熱で刻印されたみたいに、それは熱の下がった翌朝も変わらずに。 そして、三度目は委員会が一緒になった事。 これは、運命なのかもしれない。 だって、席も隣だ。 体温を感じるくらいの距離。こちらを見向きもしないけれど、俺はこっそりと流し見る。 よく見たらそばかすがある。 可愛らしい。 パサパサの髪は絶対にトリートメントなんてしないんだろうな。 筆記用具を忘れた生徒に対し、ボールペンが配られれば、彼が俺へと初めて視線をくれた。 『ある?』 筆記用具はあるのかと聞いているのだろう。 いや、と答えるとすぐに前の席から回されたペンの入った箱を確認し、二本取り出す。 『はい』 二本のうちの一本は俺に。 俺の為に、取ってくれたんだ。 じわりと胸に宿ったのは愉悦。 受け取ると直ぐに前を向き、また俺なんて見もしない。 どうしよう、折角、折角隣に居るのに。 運命の相手かもしれない、いや、そうだ、きっと。 だから、 『ねぇ』 『へ、何…?』 『俺を見てて欲しいんだけど』 『ーーーは?な、』 ーーーーー赤い糸が見えるようになる。 赤い糸の先は俺。どんどん濃くなる赤い糸。 父親の知り合いの影響で以前面白半分で覚えた催眠術。 素直な人間ほど良く掛かると聞いたけれど、本当に上手くいくなんて。 小指を見ている。 不思議そうな顔が良い。 勿論催眠術だから、こつこつと入れていかないといけないけれど、委員会の仕事も一緒な上に、彼が誰ともつるまないのは好都合過ぎる。 そうしている間に彼の心理も突く。 一人が好きなんじゃ無い、本当は友人だって欲しい。 そう思っている彼の隙間に指先から入っていくような行動。 マインドコントロールだと言う人間もいるけれど、俺がやっているのはそんな下衆いもんじゃない。 ほら、彼も笑っている。 少し困った風に眉を落として笑う姿が可愛い。 そう思ったら全部が可愛い。 ここの高校に落ちてくれた彼の友人に感謝しかない。 話してみれば驚く程に心地良い声は落ち着きをくれる。 すぐに目を伏せる癖も謙虚さを感じて好きだ。 あぁ、そうだ、好きなんだ。 運命の相手だから、好きなんだよな。 だったら早く彼の小指から伸びている赤い糸の先には俺が居るって知らせないと。 近くに居ればいる程に濃くなると、すぐそばに相手が居るんだと。 やばい、楽しい。 意識してくれている、嬉しい。 顔だけじゃ無くて、耳やうなじまで赤くなるとか、計算されていない可愛らしさが殺しにきてる。 「鹿野、」 「ん?」 付き合い始めてから初めてのデートに誘う。 警戒心の無くなった鹿野の眼が俺を映すのがたまらなく愛おしい。 「キス、したいな」 「ーーーーあー…だ、だよな、そう言うのも、うん…」 ほら、可愛い。 語彙力馬鹿みたいになっている俺の隣を歩く鹿野がどぎまぎと視線を彷徨わせるも、すぐにこちらへと顔を向けてくれる。 女と違って屈まずともすぐにキス出来る距離がいい。 鹿野とのキスは本当に驚くほどに気持ちが良かった。 触れるだけのそれだけど、勿論それだけじゃ満足出来そうになさそうだ。 「鹿野」 「う、うん?」 ーーーーーセックスしよう。 これで安心。 赤い糸はもっと強く赤くなってくれる事だろう。 終
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