ウレシウレシトナクココロ

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「分からんけど、好きだった」 意識して過去形にしてやり、そのまま歩き続ける。 隣で悠士がどんな顔をしているかなんて確認も出来なかったけど、これで本当に終わらせられたんじゃないかと思った朝の一発目だ。 スッキリ? 誰だ、そんな事言ったの? 俺だ…。 「ねぇ、悠士ぃ。今日は一緒に付き合ってよねっ!」 「うん、いいよ」 眼の前で繰り広げられる悠士と悠士の彼女の彩香(あやか)ちゃんはほんわか空気を醸し出しながら、相変わらず仲良し振りを見せ付けてくれる。 いいんだけどね。だって毎日見てた光景だし?いいんだけど… うん…これって結構クル… グタっと机に突っ伏せば、隣の席の青山が俺の頭を突いてきた。 「あ、何?」 「なぁなぁ、今日の英語の宿題さ、やってきた?」 何を言い出すんだと眼で訴えれば、青山はテヘっと舌を出す。可愛くねーぞ。 「今日俺当てられるのに、やってなくてさー…なんて、」 「…仕方ねぇーなぁ」 ホラっと机からゴソゴソ取り出したノートを放ってやれば、ラッキーっと青山は其れに頬ずりし出した。 「馬鹿、キモい、やめろ」 「サンキュー!後でジュース奢ってやるからなぁ!愛してるぞぉ!」 パチンっとウィンク一つ飛ばされ、其れを避けつつも、 「おう、俺もだよ、ハニー」 と、皮肉染みた笑いを浮かべてやった。 今日の昼飯のジュース代は浮いたな。 昼飯時、青山に買ってもらったジュースを片手にフンフン鼻歌交じりで廊下を歩いていると悠士が教室の前で俺に手を振っていた。 「どした?」 「屋上行こう、飯」 いつもは教室内で食べる昼飯。 何で?っと首を傾げたが、既に悠士の手には俺の弁当箱が握られている。 お前…勝手に人の鞄漁ったな… 流石にヒクッと頬が引き攣ったものの、そんな事気にもせずに悠士はさっさと屋上への階段に向かい出し、俺も慌てて後を追った。 もうすぐ冬になるからなのか、少し肌寒い屋上は誰一人居ない。 「…さみぃ」 「でも気持ちいい」 ふへっと笑う悠士をジロリと睨みつけるが、やっぱり悠士はさっさと地べたに腰を下ろし、自分の弁当を開け始めた。 本当にマイペースなやつ… 「貸切ぃ」 「貸切じゃねーよ、どう見ても俺等が少数派つーだけ」 もぐもぐとウィンナーに箸をぶっ刺した悠士に行儀悪い!っとデコピンを食らわす。 でも…確かに。 ぐるっと見渡しても誰もいなくて、青い空と少しだけ冷たい風だけ。 ちょっと、いいかも、なんて。 …ガラにもない…。 気恥ずかしさを隠す為にさっき青山から買ってもらったジュースを振る。 一気に飲んでしまおうと思っていたのに、 すっ… 「ちょ、悠士?」 手の中にあったモノは悠士に掠め取られてしまった。 「これ、青山から買ってもらったやつ?」 「そーだよ。返せよ」 「俺に頂戴」 「は?」 何、一口くれって事? 「いいけど…」 と、言った瞬間。 悠士はプルトップを開けるとそれを一気に煽った。 「ちょ、悠士っ!おま、それっ…!」 時既に遅し。 俺の制止の声等聞こえなかったのか、ぷはぁーなんて幸せそうに笑いながら悠士は空になったそれを軽く振ると、満足そうに置く。 「…おい」 「何?」 何でそんな悪意の無い顔してんだ、お前は? 「…何全部飲んでんだ…それ俺のだぞ…」 そう懇切丁寧に教えてやったと言うのに、悠士は『だから?』と言わんばかりに眼をクリっとさせてみせる。 「だって、青山から貰ったんでしょ?」 「そう、青山から俺が貰ったの」 『俺が』って言うのを強調な。 なのに、悠士はそんな俺にニコっと笑うと、 「だからじゃん」 と、また弁当に齧り付き始めた。 …すいません、意味が分かりません…。 空になったジュース缶を恨みがましく見詰めても、やっぱり分からない。 仕方無い、と溜め息を洩らし、俺も弁当へと集中した。 次の日、教室に入って最初に感じたのは違和感。 いつもと同じ面子、同じ風景。 同じ様なクラスメイトの楽しそうな声。 なのに、感じる違和感を持て余しながら、俺は席へと付いた。 途中で会わなかった悠士が居ない為か…そうだ… 朝はいつも悠士とクラスが違うけど、彩香ちゃんが健気に来ている。なのに、今日は二人とも居ない。
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