君がくれたもの

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秘密基地へと辿り着いた。 海は肌を刺すほど冷たい。それでもまだ、彼の体の方が冷たく感じた。 海藻に隠れた入り口から岩の中に入る。自分一人では広いと思っていたこの場所には、彼がくれた物がいくつも並んでいる。 次の日。 偶然なのだ。 本当に偶然、つい、また岩場の近くまで来てしまった。 我に返り戻る前、そっと耳ヒレを澄ました。すると声が聞こえた。 それは彼の声と、初めて聞く声だった。 誰かがこの場所を見つけてしまったらしい。 後を追ってきたらしい彼は危ないから離れよう、と懸命に声を掛けていた。 初めて聞く声は狼狽えていた。だが激しく、”俺は人魚を殺して不老不死になるんだ、次の長になるんだ”と声を荒げていた。 離れなくては。だが彼は大丈夫なのだろうか。 不安で岩陰に潜み揺れていた時、一本の矢が水中へと突き刺さった。 それは自分とも全く見当違いの方へ飛んでいて、すぐに海の底へとゆっくり沈んでいった。だが一度どきりとした心臓を落ちつけようと深く息を吸い込んだ時、何か嫌な声が聞こえた。 次いで聞こえたのは、叫び声。彼では無かった。 その声は何かを喚くと、大きな足音と共にどこかへ消えてしまう。 しばらくして、そっと陸地を覗くと、 彼が波を浴びながら横たわっていた。 その胸には大きな矢が刺さり、夜でも分かるほど真っ赤に染まっていた。 血のこびり付いたシャツに身を包んだ彼を秘密基地に置く。 あれほど海の中の話を楽しそうに聞いていた。ここには彼が興味深そうに聞いていた魚の骨のベットだってある。だが彼はもう笑う事もそれに手を伸ばす事も無い。 心臓がまた鳴り始める。 彼と初めて会った時を思い出した。あの時以上のよく分からない感情が涙を溢れさせ、視界をぐにゃぐにゃと歪ませた。 彼の手に触れる。 まるで彼に貰った物のように、ただそこにあるだけだ。 それがひどく、綺麗だった。 「ああ、……そっか」 感情の答えを見つけられた。 彼の死体に抱き付くと、涙がまた零れては海へと滲んでいく。 きっと今自分は、初めて貝殻や真珠を見た彼と同じ目をして、これ以上ないほど笑っているのだろう。 「やっと……、やっと、僕だけの物が出来たんだ」
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