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夏の星座はもう中天近くに登っていた。山の風が優しく吹き抜ける。
リィリィという虫の声と、シリリリリという鳥の声と、葉っぱが擦れてさわさわという音が聞こえる。それからしめった葉っぱと土の匂い。夜がふけるにつれて、夜景の明かりはずいぶん小さくなって、夜はさらに暗く、星の明かりが存在感を増していた。僕は満天の星空を見ながら夜食を食べて、藤友君はぼんやり空を眺めていた。
「星なんて眺めるのはずいぶん久しぶりだ」
「そうだね。僕は父さんと一緒にキャンプにいくことがあるから、たまに見る」
「そうか、いいな」
藤友君は目を細めながら羨ましい、という感じの声を出した。
「あ、ごめんっ」
僕は藤友君にはご両親がいなかったということを思い出す。
「気にしなくていい。もともと一緒に星を見るような親じゃなかった」
藤友君がごろりと寝転がったので、僕も隣で寝転がる。
黒い影に縁取られた鳥居を下から眺める。堂々とした丸みを帯びつつも直線を感じさせる柱、その向こうに瞬く万の星、鳥居を囲んでザワザワとざわめく木々の影。
「ここ、いいな。なんか落ち着く」
「ここは新谷坂の封印の場所だから悪いものは入ってこれないんだ」
「そうか」
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