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01 不埒な男と純な男
夜だというのにどういうわけか、まだ蝉が鳴いている。
月島高広はデスクに頬杖をつき、生あくびを噛み殺していた。
(はー。なんか、いい転職先無いかなあ……)
スマホの画面をスクロールしながら、求人情報をくるくると眺めているだけの、無為な時間が過ぎていく。
こんな風に、堂々と職場で転職情報サイトを眺めていられるのは、今夜が四日に一度の夜勤当番の日だからだ。
薄暗く、狭い事務所に一人きり。
慣れたこととはいえ、なかなか鳴らない電話の番をするのはかったるい。
それに、少し離れたところから聞こえてくる、いびきの音も耳障りだった。その轟音の主である課長は、今頃仮眠室で、お気に入りの熊のキャラクターのタオルケットに包まれて眠っていることだろう。
(せめて目の保養になるような、僕好みのいい男が社内にいてくれたら、ちょっとはマシなんですけどね……)
煌々と光る液晶画面を睨みつけながら、そんなくだらないことを考えた。
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