01 不埒な男と純な男

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 ここ『白砂(しらさご)葬儀社』は、下町の小さな葬儀会社だ。  月島は高卒で入社し、今年で七年目になる。社員数の少ない零細企業なので、いまだに一番の若手のままだが、仕事は卒なくキッチリとこなしている。  ……こなしてはいるが、ただそれだけだ。  葬儀業界に就職したのは、学歴不問である程度稼げて、安定性のある仕事を探した結果だった。それ以外に、情熱やこだわりみたいなものは持ち合わせていない。  昼も夜もない不規則な生活に、休日だろうが就寝中だろうがかかってくる急な呼び出し――そんな激務の連続にはうんざりしていて、最近ではむしろ、この仕事を辞めたいとさえ思っている。  それに、『転職するなら二十代のうちに』という気の焦りもあった。    こうして空き時間になる度に転職情報サイトを眺めているのも、先月二十五歳の誕生日を迎え、アラサーの域に足を踏み入れた故の危機感からなのだった。  ――デスクの電話が鳴る。  月島は2コール目で受話器を取り、機械のように応答した。 「白砂葬儀社、月島でございます」 『夜分にすみません。ちょっとお聞きしたいことがあって、お電話したんですが』  かなり若い男の声だ。  ペンとメモ紙を手に取る。 「はい。お伺いいたします」  そう答えると、電話の向こうの男は淡々とした調子で続けた。
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