01 不埒な男と純な男

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『えっと、闘病中の身内がいまして、そろそろ葬式のことを考えないといけない感じなんですけど』 「それはそれは……左様でございますか」 『はい。それでですね、こういったことが初めてなので、何も分からなくて。一度そちらに伺って、見積もりのこととか色々、直接相談させてもらいたいんですが』 「事前相談でございますね。かしこまりました」  手にしたペンを、指の間でくるくると回転させる。  それから月島は、頭の中にあるマニュアル通りの言葉を、なんの感情も無く読み上げた。 「それでは恐れ入りますが、お名前とご連絡先をお伺いしてもよろしいでしょうか――」  相手も日中は仕事があり、時間が取れないらしい。事前相談の約束は、明日の19時ということに決まった。  明日は通夜の予定もなく、うまくいけば早く仕事が上がりそうだと期待していたのだが、儚い夢だったようだ。 (クッソ……また定時で帰れないじゃないか)  受話器を置いてから、月島は無意識に舌打ちをしていた。  * * * 「失礼します」  応接室に案内されてきた青年が、首だけでぺこりと会釈する。  その姿を見て、月島は一瞬息を飲んだ。 「……こんばんは。タツミ様でいらっしゃいますね」 「はい。よろしくお願いします」  声の印象通りの若い男だった。月島と同じくらいか、いや、ひょっとするとそれよりも下か。  程よく引き締まった体つきに、濃いめの凛々しい目鼻立ち。微かに幼さの残る、ぽってりとした形の良い唇。いわゆる醤油顔系の月島とは、カテゴリーの違う男だ。だが一目見て、『好みのタイプだ』と思った。
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