400人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
『えっと、闘病中の身内がいまして、そろそろ葬式のことを考えないといけない感じなんですけど』
「それはそれは……左様でございますか」
『はい。それでですね、こういったことが初めてなので、何も分からなくて。一度そちらに伺って、見積もりのこととか色々、直接相談させてもらいたいんですが』
「事前相談でございますね。かしこまりました」
手にしたペンを、指の間でくるくると回転させる。
それから月島は、頭の中にあるマニュアル通りの言葉を、なんの感情も無く読み上げた。
「それでは恐れ入りますが、お名前とご連絡先をお伺いしてもよろしいでしょうか――」
相手も日中は仕事があり、時間が取れないらしい。事前相談の約束は、明日の19時ということに決まった。
明日は通夜の予定もなく、うまくいけば早く仕事が上がりそうだと期待していたのだが、儚い夢だったようだ。
(クッソ……また定時で帰れないじゃないか)
受話器を置いてから、月島は無意識に舌打ちをしていた。
* * *
「失礼します」
応接室に案内されてきた青年が、首だけでぺこりと会釈する。
その姿を見て、月島は一瞬息を飲んだ。
「……こんばんは。タツミ様でいらっしゃいますね」
「はい。よろしくお願いします」
声の印象通りの若い男だった。月島と同じくらいか、いや、ひょっとするとそれよりも下か。
程よく引き締まった体つきに、濃いめの凛々しい目鼻立ち。微かに幼さの残る、ぽってりとした形の良い唇。いわゆる醤油顔系の月島とは、カテゴリーの違う男だ。だが一目見て、『好みのタイプだ』と思った。
最初のコメントを投稿しよう!