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(うーん……なんとなく影のある人だな。苦労臭というか、若い割にはくたびれた雰囲気をまとっているというか……)
鉛筆を走らせるタツミを、再びじっくりと観察してみる。
スポーツやアウトドア――それか肉体労働でもしているのだろうか。ナチュラルに日に焼けた肌がいい。
月島の務める葬儀会社では、社員のヒゲや染髪、過度な日焼けはNGと社内規定で決められている。仕事上、清潔感は特に重要だし、ソフトで親しみやすい印象作りが大事とされているからだ。
当然、月島もそれにならって、見た目の印象には気を付けている。だからこそ余計に、健康的な小麦色の肌や、ワイルドな男の魅力には憧れてしまうのだ。
『巽蒼介』
その名前を書ききったところで、すり減った鉛筆の先が動きを止めた。
「あの……」
「!」
顔を上げた巽と真っ直ぐに目が合い、ドキンと心臓が跳ねた。
「書けるとこだけ書いたんですけど、とりあえずこれで」
巽はまた愛想笑いを浮かべながら、書き終えた記録用紙を返してくる。本人は、月島からこんな邪な目で観察されているなんて、露ほども思っていないだろう。
不謹慎なのは百も承知だが、激務の合間のささやかな楽しみといえば、こうして仕事を通じて関わる大勢の人間の中から、自分好みの男を見つけて視姦することくらいしかない。
(……許せ、僕好みのイケメン)
頭の中で呟きながら、月島は記録用紙を受け取った。
(ふーん……てっきり『辰巳』かと思ったけど、『巽』なのか。まあ、そんなことどうだっていいけど)
記入欄には、空白もかなり多いようだ。
その内容にざっと目を通そうとして、視線が止まる。
「ご闘病中の方というのは、巽さんの叔父さんなんですね」
「はい。医者からは、もってあと二週間と言われています」
「二週間……そうですか……」
巽の叔父――相談記録用紙には、『津久田』という名が書かれていた。
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