01 不埒な男と純な男

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「叔父には家族がいないんです。独身で、親ももう亡くしています。あのう、それで……甥である自分が叔父の葬式をしてやることって、出来るんでしょうか?」  巽は膝の上で指を組んで、淡々と言葉を紡ぐ。 (……なるほど、やや変化球ときたか)  親や息子、兄弟でもなく、若い甥が喪主を務める――珍しいパターンではある。巽もあまり聞いたことのない話だから、心配しているのだろう。  しかし、問題になるようなことは何もない。  月島は巽を安心させるべく、穏やかな口調で話を進めた。 「ええ。喪主を務めるのはご家族のみと決まっているわけではないので、可能ですよ」 「そうですか。……よかった」 「ご葬儀について、何かご希望などはありますか?」 「ここ、小規模な安いプランが色々とありそうだったので……50万前後くらいの予算で、なんとかなりませんか」  提示された額は、葬儀の費用としては少々控えめな方だ。  月島はファイルからパンフレットを取り出し、巽の前に広げた。  白砂葬儀社がメインで取り扱っているのは、家族葬などのリーズナブルなプランだ。あまり金額をかけない小規模な葬儀が好まれる昨今では、そういったプランの需要は高まっている。巽の要望に合うのも、このあたりだろう。
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