01 不埒な男と純な男

1/17
395人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ

 01 不埒な男と純な男

 夜だというのにどういうわけか、まだ蝉が鳴いている。  月島高広(つきしまたかひろ)はデスクに頬杖をつき、生あくびを噛み殺していた。 (はー。なんか、いい転職先無いかなあ……)  スマホの画面をスクロールしながら、求人情報をくるくると眺めているだけの、無為な時間が過ぎていく。  こんな風に、堂々と職場で転職情報サイトを眺めていられるのは、今夜が四日に一度の夜勤(24時間)当番の日だからだ。  薄暗く、狭い事務所に一人きり。  慣れたこととはいえ、なかなか鳴らない電話の番をするのはかったるい。  それに、少し離れたところから聞こえてくる、いびきの音も耳障りだった。その轟音の主である課長は、今頃仮眠室で、お気に入りの熊のキャラクターのタオルケットに包まれて眠っていることだろう。 (せめて目の保養になるような、僕好みのいい男が社内にいてくれたら、ちょっとはマシなんですけどね……)  煌々(こうこう)と光る液晶画面を睨みつけながら、そんなくだらないことを考えた。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!