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最終話
「…あああん、いきなりそんな……噛むなって、ガーネッ……」
口先を先端に移動させて、鈴口を軽く噛むとロインの抵抗も嬌声に変わった。掴んでいたガーネットの髪も引き離すやり方でななく、過ぎる快感をやり過ごそうとしてかき回すような仕草に変わっている。
あっという間にロインは、悦楽の渦に呑まれて息ができなくなる。まるで水の中かハンゲル山の頂にいるかのように空気が薄いと感じるのは、快感に喘ぐばかりで息を吸えないからだ。
両手をロインのお尻に回してやわやわともみ込みながら、ガーネットが緩急をつけてロインのものを浅く深く咥えて舌と上あごで圧迫させるとロインの腰は面白いくらいびくびくと痙攣する。
「だっ、だめだ、もう出ちゃうっ。離せよ、ガーネット。離せってぇ、あああ」
離すどころか、ガーネットがもっと激しく吸うように口を動かすためにロインは、悲鳴のような声を上げてガーネットの口の中に吐精してしまった。
「バカやろう、口から出せよガーネット。僕ばっかり…なんだよ、こんなの……」
ロインのものをどうしようかと思いながら、ガーネットはごくんと飲み込んだ。他人の精液を飲むなんて考えたことすらなかったが、ロインのなら大丈夫だと思ったのだ。驚くロインの顔が目に入る。
「いや、あの……ごちそうさま」
「何がごちそうさまだっ、ガーネットの大バカ」
真っ赤になったロインが胸を叩くが、ガーネットは、にまりと笑ってロインの達したばかりで萎れた茎を愛おしそうに握った。
「ロインのもんならなんでもオレのもんだ。そうだろ?」
「何でそうなる。僕のものは僕のものだ。話を摩り替えるなよ、ガーネット」
「そーいや、ロインはルーク様とオレに言えないことをしたんだっけ?」
「なっ……」
何を今更と睨むロインにガーネットは、「じっくり聞く事にするよ、体に」そう言ってロインの首筋にきつく吸い付いた。
「やめろっ、ああっ、痛いって」
前にもこんなことがあったとロインは思い出す。艶事が進むと途端にガーネットは、ロインの制御なんか効かなくなる。
「ガーネット、いいから服脱げって」
落ち着けと言いながら、ロインはずりずりと壁際に逃げる。不適な笑みを浮かべてガーネットがシャツを脱ぎながらロインに迫ってくる。ズボンを邪魔物のように足で蹴るように脱ぐと、下着も片手で脱いでぽいっと寝台の下に放り投げた。
「おまえ……顔怖すぎなんだよ」
ロインが羽がみっちりと入った枕をガーネットの顔に向けて投げた。
「だって怖がらせようと思ってるからな、口付けして、それから?」
ガーネットがあっさり枕を避けて確認を取るように聞く。
「だから、ちょっと触られただけだって言わなかったか?」
ロインは、背中に壁の感触を感じて顔を顰めた。
「どこだよ、ロイン」
「うるさい、言うもんかっ」
色っぽいというより、喧嘩のように二人は組みあって上になったり、下になったりごろごろと寝台の上を転がった。
「おまえこそ、僕だけとか言いながら女とやったりしたんだろっ。お互いさまだ」
「やったよ、何回か。女の胸は大きくて柔らかいし、受け入れる場所は、触れば濡れるし簡単だと思った」
「な……」素直に感想を言うガリオールにロインは、怒りのために言葉を失う。ガーネットの頬を張ろうとして右手を引いたところをガーネットが思いがけず、きつく抱きしめてきた。
「だけど、オレはおまえがいいんだ。胸だっておっきくないし、入れるまで解するのが大変だけど。だけどロインがいい。オレが欲しいのはロインだけ。おまえの心も体も好きで好きで堪らない。オレが抱きたいのは、この世の中でおまえだけなんだ」
一息に言って、ガーネットはやっと腕を緩めた。
「で、おまえはどうなんだよ、ロイン?」
あまりに大人しいロインの真意を測りかねてガーネットは、顔を覗きこんだ。
「僕は……」ロインは言葉を詰まらす。
今回、ガーネットが自分の家族に自分のことをどう納得させたのか、ロインは知らない。聞けば、「最初は、お願いして最後は脅した」らしい。
記憶を消して無理やり家に戻そうとした件について親を脅したのだろうか? 結婚話は当面お預けになり、ロインを連れて行くことにも了承を得ている。
そんなこともロインには、気になって仕方ない。それなのにガーネットときたら、こんなにまっすぐに子供みたいに胸の内を全部吐き出すなんて。
――うらやましくて、やっぱり嬉しい。
「僕は、そんな大事な事、おまえみたいにべらべら言えない。……だけど、愛してるガーネット」
ロインは、言った側からガーネットに盛大な音を立てて口付けられる。
「オレはロインと伴侶としてだけで一緒いたいわけじゃない。共に仕事を大きくしよう。どちらかに依存するんじゃなく、対等な関係になりたいんだ」
「……対等な関係」
――僕はガーネットのこんなところが好きなんだ。
ロインは胸が熱くなる。今まで対等に扱ってくれたのは、そうしたいと何度も言ったのは、ガーネットだけだった。
庇護したい、または、自分の影響下に置きたい。あるいは単に体が目的だったり。ロインはいつでも可愛がられる役を振り分けられる。そんなのは嫌だった。相手に合わせて生かしてもらう運命なんてごめんだと思う。
――ガーネットなら幸せになれると思う。いや彼を幸せにするんだ。
「口付けて、ガーネット」
何度も角度を変えながら、お互いの口内を蹂躙し合う。ガーネットがそのままロインの体を確かめるように唇を這わせていき、ロインは堪らず、声を上げ続けた。
「来いよ、ガーネット」
誘う言葉の意味をガーネットは今度は間違えなかった。ガーネットの肩にロインの両足がのって揺れている。何度かロインのいいところを擦るように突いていたのをふいに深く突き入れると、ロインはその圧迫感と押さえきれない快感に気を失いそうになる。
でもここで意識を失ってはだめだと思う。だってもし、これが夢だったら覚めてしまう。起きてまた一人だったらどうしたらいい?
「ガーネット…僕に印をつけて。…僕が迷わないように、うんとたくさん」
「…分かった」
そう言ったガーネットの動きが激しくなって、ロインの前にも手が回り、激しく上下に扱かれる。
「あああっ、ガーネット…」
「ロイン、愛してる」
ロインは自分の中にガーネットの熱が注がれるのを感じて、自分も爆ぜた。そして涙が自然と零れるのを止められない。
「どうした?」
頬に流れる涙を舐め取りながらガーネットが聞く。
「夢じゃないよな、僕の中にちんちん突っ込んでいるのは、ガーネット、おまえなんだよな」
「あんまりな言い方だけど、そうだよロイン」
何を恐れているのかとガーネットはロインの震える肩をしっかりと抱く。
「ロレイン・キール、オレは一生おまえと共にいるよ」
うんとロインはしゃくりあげながら頷く。
「キリア・ランドルフ、僕以外のやつに目を向けたらぶっ殺す」
「なんだよ、それは」
笑いながら、ガーネットは、ロインと誓いの口付けを交わした。
二人が甲板に出て来ない間に、結界による濃い霧はすっかりと晴れて船の前には広大な土地が広がっている。
水先案内人をしていた魔導師が大きく息を吐いた。彼らにとっても毎回この海峡を渡ることは、気力と体力を削られるような仕事なのだ。
海峡を渡るだけで、冷涼なレイモンドールとは違う暖かな風が船の帆を進ませていく。魔術が支配する国に残る者、そして新しい道へ進む者。
見えないだけで、それぞれの道が無数に分かれている。
風が渡っていく。
二人を祝福するような、暖かな風が――。
後に大陸の隅々に拠点を置いて商いを行うキール・ランドルフ商会の礎は二人の元魔導師だった。
おわり
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