逃げた馬鹿を追って

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逃げた馬鹿を追って

 中央大陸の東の外れにあった、個人経営の魔法学校。それが、稀代の天才魔法使いアーサー・メルクリウスの家だった。  アーサーは、アカデミー建国の際の様々な魔法的問題を解決するアドバイザーを経て、最終的にアカデミーの運営理事の一席を宛がわれたが、最終的に石もて追われた、けったいな経歴の男だった。  それは何故かというと、歓迎されて通された部屋には、一人ずつが6人ほどの赤ん坊を抱いた妊娠後期の女達が座っていることからも明らかだった。  あー。ルクレツィア・マールシュタットにヴァネッサ・ミラーズ 。元ルグノワール魔法学校の面々だったな。 「うちの農園で絞ったミルクティーです。王陛下」  あ、臨月なのはあれだ、くっころっつってんほおおおおおお!ってされてた闇男爵(笑)の手下の、確かリシェーラだった。  まあなるよね?んほおおおおおおっつってりゃあいずれ妊娠するよね。 「久しぶり。アーサー」 「お久しぶりです!偉大な王陛下!今日は僕達の記念すべき200人目の赤ちゃんの出産にお立ち会いですか?リシェーラは予定日だと今日にも、10人目が生まれます!いいタイミングといわざるを得ません」  来る訳ねえだろうが淫獣。  こいつが理事からも旧アカデミー研究所の所長からもクビにされるまで、学園国家2大有害淫獣って理不尽なレッテル貼られてたんだよな。 「お前が去った後、やっぱり王宮や街から女達がゴッソリ消えた。ハメールンの連れ去りハメ男と呼ばれてんだぞ。ルグノワールが潰れたのを思い出した。この馬鹿広い農場で、奥さん達の国でも作るつもりか?大体、さっき会ったのは、自転車屋の奥さんだったぞ。正直言ってお前の所為でこの前のルルコット騒動が起きたと言っても過言じゃない」  奥さんは大きなお腹を抱えて幸せそうに言っていた。  主人と子供には申し訳ないことをしましたが、女としてアーサーと添い遂げるのは、これ以上ない喜びです。私のこと、この子のこと、どうか主人には内緒にしていただけますか?  言えるかそんなこと。  この奥さんに逃げられたことから、アカデミー教育正常化戦線とか言うけったいなPTAはいずれ暴走し、フラさん達のハメ撮り(バッタもん)流出に繋がったんだよな。  要するに全部こいつが悪い。 「違うんです!彼女達は自分でついてきたんです!」 「そうか。お前が転移魔法で拐ったのは何人だ?」 「それはーー妊娠初期の子だけです」 「そりゃあ何人いたんだ?ていうかうちの女中の若手全員!」  娘を返せえええええええええええ!変態国王殺してやるううううううううううう!って言われたの俺。 「いや、妊娠したての子は60人くらいですかね?違うんです!誘ってきたんで!ーーつい」  俺もスパットイッテモータのトリガーをつい引きたい。このクソ馬鹿に向けて。 「お前等いいのかこれで?!闇男爵はどうなった?!友達出来た。って手紙来たよな?!」 「5年前、多くの子供に看取られながら天寿を全うされた。よい人生だったと一筋の涙をこぼして逝かれた。その時既に私のお腹には愛するアーサーたんの5人目の子が」  完全に裏切ってやがんなこの暗黒戦士崩れ。 「正直、前のルルコット様の騒動は聞いております。ただ、今更僕が出張ってもPTAの感情を逆撫でするものと思ってました」  こいつがフルボッコにされるのは見たかった。 「新研究所が順調に実績を伸ばしているのは素晴らしいと思います。僕でよければいつでも言ってください。お力添え出来ると思います。まあ、レイロードの派閥は既にルルコット様の影響下にあるようですが」  お前を呼ぶことは永遠にないだろうよ。  ジョナサンは、さっさと本題に入ることにした。 「アーサー。お前が通ってた院の魔法学科なんだが、かなりレベルが高いって聞いたけど」 「ええ。でも、アカデミーほどじゃありませんよ。あそこの卒業生は本当に素晴らしい。ユーリディス・ニルバーナさんを始めとして、みなさん立派な魔法使いばかりを輩出しています。流石は王陛下。生粋の先生なのですね」  うんまあね。一切謙遜する気はなかった。  実際上級生を指導してるのはフラさんだもんね。俺は幼稚部から初等部までだし。  まあ初等教育の重要性は言うまでもないことだもんね。学園国家として(予算)半端なく入れてるしなあ。 「俺が知りたいのは、バーナード、バーニー・クロイツェルって奴なんだが」  ああ!アーサーは声を上げて言った。 「彼はよく知っていますよ!院の最大の功績と呼ばれる天才児ですから!将来を嘱望されていたのに、卒業と同時によく解らない分野に飛び込んでいったと聞きましたが。彼が院に残ってくれればと思ってましたよ」 「そうか。あいつ今、うちの馬鹿生徒と逃げちまったんだ」 「ーー駆け落ちですか?」 「いや。まあバーニーは多分そんなこと言ってたが。どうだろう?追いかけてどうにかなると思う?」 「難しいでしょうね。彼は8歳でもう転移魔法を自在に使ってました。奇抜な格好をよくしていました。彼が逃げた先がどこか。それによると思います」 「まあ、とりあえず不法出国になる、のかな?」 「それはーー不味いかもしれませんね。彼の目的は?マネーロンダリングですか?それとも」 「多分、家族計画、かな?」  ブリュンヒルデを孕ますっつってた。  (たで)にも程があると思う。 「それはーー何とも」  何か気まずかった。実際しょうもない犯罪行為だったし。  ま、まあ。誤魔化すようにアーサーは言った。 「物騒な動機でなくて何よりです。戦闘になったら、どのレベルかは読めませんが、迂闊に刺激しない方がいいのは間違いありません」 「そうだね。ありがとう。そしてごめんね。期待の後輩を犯罪者にして。主導したの俺の生徒だし」  実際何をしでかすか全く解らないし。うちのブリュンヒルデは。 「いえいえ!彼もきっと深い訳があったのでしょう!」  何とも尻すぼみで、会見は終了した。  参ったなあ。本当に。ジョナサンはポツリと呟いた。 「まさか逃げるとはなあ。ブリュンヒルデは転移魔法使えないもんな。今アカデミーの卒業生で転移魔法使えるのアリエールだけだもんな」  はっきり言って、行使難易度最大の魔法の一つが転移魔法で、使えるだけで一生いい飯が食える魔法なのは間違いないんだよな。  そんな魔法が使えちゃうアリエールの家に泊まりで遊びにいくんだ俺は。  たゆんたゆんのアリぱい。アリ尻。  うん最高です。 「しょうがないなあ。俺が追うかあ。アースワン一人旅かあ。とりあえずゴーマんちに遊びに行こう」  手近な転移法陣を利用して、ジョナサンはアースワンに向かった。
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