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集結、拡散。そして陰謀
王宮を訪れたジョナサンの娘、クリステラ・エルネストは、キャンキャン吠えて父親と自称彼氏を探していた。
「パパー!魔王!どこ行ったのー?!私の部屋にバクレツコガネなんか仕掛けて!おかげで部屋干ししてた私のパンツが燃えちゃったでしょ?!魔王!私のパンツが見たいのね?!なら見せてあげる!パパぺい!ぺいしてやるぺい!」
そんなことを言いながら、扉を開けて固まった。
「ガイアはどこ?!エラル!クロノスを探すわ!誰かいないの?!」
言いながら、クリステラは転移して消えた。
結局、それに気づいたのは、呑気に入ってきたメイド長のマーガレット・メイナードだった。
「ひ、ひいいいいいい?!ぎょえええええええええええ!!」
それが答えだった。ユーリディス・ニルバーナをして「見事すぎる構図」と表現した彼等のとらされたポーズは、ブリュンヒルデ・レトナシワ曰く、「勇者魔王再臨」と呼ばれる壮絶な男による3Pポーズだったと言う。
凍らされた勇者と魔王、もう一人の時が流れ出すのには、もう少し時間がかかりそうだった。
そして、ムーンシティーを一望出来る位置に立った名もない殺人者は、そこを目指して跳躍した。
彼は浮遊魔法を持たない。目指すポイントが正確に見えた時、彼の体は転移していた。
広大な公園の広場。人を殺した正義の味方気取りの馬鹿が、死体を埋めるならどこか。
どうせコソコソはすまい。ここだ。
彼の魔力は恐ろしい力を生み、膨大な量の土砂を持ち上げ、地中深くにコンクリートで埋められた場所を発見した。
砕け散ったコンクリートから引きずり出されたのは、黒い炭化した何かの燃えカスだった。
「お前が埋まっている場所を探すのに随分かかった。出てこい。どうせ死なないんだろう?」
みるみる内に炭は集まり、固まっていった。
ヘラヘラした笑い声が聞こえた。
「お初にお目にかかる。父上らしいがどうでもいい。ただし、血縁であることは重要だ。父親の精子が受精し、人間を形作る際、その魂はコピーされる。魂分けだ。ここまで解るか?」
とうに失われた知性が、下卑た笑みとして帰って来た。
「そこまで解れば後は容易い。お前から死を奪ったマナトワ、ジョン・ベケットという男は、何をしたと思う?どこから死の概念を奪ったか。お前のロクでもない魂だ。魂を深く見通した時に、お前と瓜二つな魂の構造を持つ人間は誰か。神の視点では、魂のレベルで俺とお前の区別がつくのか。おめでとう。外の世界だぞ。アトレイユ・エリュシダール。全てを灰塵に帰した呪われた一族の最後の一人よ」
「ウヒヒヒヒヒヒヒヒ」
美しい顔立ちは全く変わっていなかった。
世界の破滅を望んだ麗しの死の貴公子。
死ぬことがなかった故に永遠の地獄に苦しめられ、その後焼き尽くされコンクリートに封印された男は、サファイアブルーの瞳を歪めて笑い続けていた。
「俺の中には複数の人格がいる。お前に目を付けたのは、お前が役に立つと思ったからだ。記憶というものは何か。長年それを研究し続けた連中もいるが、俺にとっては実に簡単な話だ。魂こそが過去の記憶にして現在への指針。ぶっ壊れたお前の魂を寄越せ。アトレイユ」
アトレイユ・ジュニアと呼ばれてもいた殺人者は、父親の目を覗き込み、そしてーー、
笑うこともなくなった、脱け殻のようなアトレイユを放り捨てた。
「ああ。あれが記憶か。お前の姉はいい女だったな。さて、この魂が幾らになるのかな?」
踵を返した彼の手には、アタッシェケースがあり、その中には、宇宙最強の金属、オリハルコンのインゴットが、使われるのをじっと待っていた。
重力制御の法陣と、空気遮蔽の為のスクリーンを越えて、アトレイユは宇宙を流れていった。
了
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