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子育て大変ハデスのおじさん
ブリュンヒルデを追ってアースワン、東京にやって来たジョナサン・エルネストは、そこで修羅場に巻き込まれた。
「おいジョナサンちょうどいい!紫を抱いててくれ!今見た通り忙しいんだ!ああ全く可愛い三つ子だなお前達は!」
「パパー」
「パーパ!びゃああああああああ!」
修羅場はこんなのだった。
泣いた紫を慌てて抱き抱えていつもの動作をした。
ゴーマとマコトさんの蠱惑的な匂いがした。
「オシメ濡れてるぞ」
ゴーマはイライラして唸った。
普段の泰然としたゴーマとは思えない、何とも所帯染みたパパさんじみた光景があった。
「今日はもう朝からこの調子だ。まずマコマコが予定通り母ちゃん休暇に入ってる。快く送り出した。いつもならトキがいるはずなんだが何故か稲荷山の用事でタンザニアに行ってる。まあ大丈夫と思いそれも送り出した。興津と根来は成田でトキを見送った後、免税品店で買い物してる。おりましょうかと言われたが、構わん行ってこいと送り出した手前戻って来いなど言えん。鳴神も楓も里帰り中で山の最深部にいる。うっかり送り出しちゃって我が家から三つ子以外の女が全消しになった。それぞれが出てった後、気づいたら一人ぼっちになって一日ふて寝しようと思ったら三つ子がいたことを思い出した。ああ!ジョナサンケツ拭いてやってくれ。オムツを履かす。うわ!水色!運動能力こっそり一番高いのは解ったから妹の尻拭き手伝え!どうせどっかからプゲラってんだろう!頭から降りろ!この闇の女帝っ子が」
「パパとワワ。ウフフ」
一人だけ雰囲気がおかしかった。多分ミズイロだった。
「っておい!ゴーマ!ミルク煮立ってるぞ!隣の鍋は空炊きしてるぞ!」
「オムツが先だ!カップ麺食おうとして忘れてた!上手くやってくれジョナサン!マコマコおおおおおお!何でこのタイミングで?!帰って来て俺のママ乳おっぱい!」
嘆くゴーマを尻目に、現役の幼稚部教員は高速で赤ん坊の世話をするハメになった。
ジョナサンは頑張り、結果三つ子は大人しくなっていた。
「やっと一息だ。ところで何の用だ?」
おい。
「って言うかお前、いや、その体じゃ難しいんだろうが、その為の女中に執事にフットマンだろう?オトムラさん貸してくれてありがとうなそう言えば」
「うん。僕か。今いないんだ。定岡さんてのがいてな?昔は偉かったんだが今じゃ僕の下っ端の下っ端やっててな?そいつがな?やらかしたんだ。お陰で地獄が大混乱になった。ヘルはうるさいし、俺の僕は全員地獄の統括者で、全員で地獄の再平定をしに行って、全員休暇だ。いざとなったら流紫降や碧や莉里、緑がいるからいいやと思って送り出したら全員都合が悪かった。最後の手段だと思って、メイドの涼白さんを呼ぼうとしたが。うん」
「あのアルビノの娘でマサオさんの奥さんだろ?どうした?」
そう言えば、一番いい匂いがする娘だった。
こないだの正月騒ぎで赤ん坊産んだんだっけ。
「正男が弁天連れて急遽チベットに飛んでった。こないだのヘルマプロディートスの事件の後、ハッスルしちゃって8人目を妊娠で、これ以上子供の面倒は見れんから休めと最高級の子連れホテル旅をプレゼントした。7人の妹の世話で梨花も涼白さんも手一杯だ。今更引っ込められん」
安請け合いしまくって引っ込みがつかなくなった勘解由小路の姿があった。
「まあそんな感じで、こうして俺がたった一人で三つ子の面倒を見るハメになった。面白いんで一人でやろうとしたがご覧の有り様になった。半身麻痺じゃあ子育ては無理っぽい」
「お前に対する防備はタマネギみたいに果てがないと思ったが」
「いや。それぞれ一生に一度の用事がたまたま重なっただけだ。それで冥王ハデスが可愛くて仕方ない我が子の子守りをしている」
子守りにてんてこ舞いな神って一体。
「そう言えば、お前、腰は平気か?」
電話口で痛そうにしていた。
「生まれて初めてのギックリ腰がベッドの上で起きただけだ。年取ったかな?俺を呪おうとしたバーバ・ヤガーはマコマコが睨んでおいた」
確か、アースワンじゃあギックリ腰を魔女の一撃と言うらしい。
ホントに魔女が出たのかあれは。
「タイミングが悪いぞ。普段はご都合主義みたいにタイミングバッチリだったのに」
多分、ゴーマがいれば一発で解決するだろうな。
ふと、勘解由小路は何かに気づいたように言った。
「言われてみれば、確かにそうだ。マコマコ、トキ、メイド、子供達までもがか。悪魔も休みで完全に独身気分だ」
勘解由小路はピアスを外し、冥王モードになっていた。
ゴーマ、改めてきちんと神化したお前見ると、目が赤いんだな。
真っ黒な魔力に混じった赤が美しい。
ん?他にいたよな?そっくりすぎる雰囲気の奴が。
「久々に左半身が自由になると違和感甚だしいな。よし、ちょっと行ってくる」
空間がバキバキにひび割れていった。
体半分が、空間の狭間に飲み込まれていった。
「お客ほっぽってどこ行くんだ?!ゴーマ!俺の用件は!」
「失せ物を探すのは犬の役目だ。俺は一人で俺の用件を片付けて戻ってくる。俺一人でも出来るとみんなに証明してやろう。俺は完璧に育児をする父ちゃんになる。おいで、三つ子達」
「パパー。パーパー!」
「ワワ!ワワ!」
何かムラサキは俺を指差していた。
「パパしゅきーワワばいばーい」
三つ子は父親に抱きついた。
「子連れでどこに行く?!この子達幾つなんだ?!そもそも!」
「ちょっと地獄だ。お前のくれたヒントは役に立った。三つ子か?もうすぐ生後半年だ」
「半年でもうこんな喋んの?!出鱈目すぎだあああ!大体戸締まりいいのか?!」
「気にするな。うちには番犬ーーん?がいるから。泊まるところない?フォックスグランドホテルに行けよ。俺もトキもいないが、まあ小遣いで泊まれるだろう。最安値の部屋は確か、8万ちょっとだ王様なら軽い。じゃあな」
三つ子を抱いて、ハデスは消えた。
「俺、全財産5万しかないんだけど!ツイてねええええ!」
ジョナサンの捨て台詞は、どこまでも貧乏臭かった。
仕方なくゴーマの家を出た。
屋根の上に、一羽のコノハズクがジョナサンを見つめていた。
俺より凄い魔力してるな。あの鳥。
あれが番犬か。番鳥ってあるの?
鍛え上げられたジョナサンの目が、コノハズクの首輪についたプレートを認めた。
稚拙かつ雑な筆致でささめと書かれていた。
恐ろしい魔力が渦巻き、ゴーマの家は閉ざされていった。
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