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プロローグ
朝起きて必ず分かることと言えば何か。
それは天気だと思う。
晴れれば光が部屋に入り、曇りもしくは雨ならば外が暗くなっている。一日の始まりは太陽の光が大事だと言われているほど、天気は人間の生活に影響を与えている。
教室の天井に貼りつている蛍光灯の光が段々明るく感じ、前の壁に置いている時計が午後8時を指すころ、教室は歓声と罵声が飛び交っていた。
「ちょっと、そこの主役しっかりしてる?」
「当ったり前だよ!じゃあ、お前がすればいいじゃん!」
時に人の言葉は喧嘩を生むこともあった。
その中で立った一人その場所に属さない高校生がいた。
それが僕だ。
皆からいじめられている、というのではない。
単に出番が最後の方であるのと人と関わるのが苦手だからだ。
僕が演じる劇の主役は三人で分かれてすることになっており、その最後の担当がなぜか僕になった。練習を開始して約2日。まだ、完璧とはいえないが初日よりかは段々形にはなっていた。まだまだ不十分のところはあるが。
「よっこらしょっと」僕の隣に一人ある女子高生が座ってきた。誰かと思い横を振り向くとそこには僕の幼馴染みがいた。
「暇だね」
「そうだな…」
「小説は好き?」
「当たり前だろ。何でそんなこと聞くんだ?」
「特に理由はない。でも、君が少し羨ましいかな」
「どうしてだ?」
「君は沢山の世界を知ってる。今やってるこの劇もここではないどこかの世界の話。それを君が、そして、これを読んだ人だけが知っている。でも、この話がここの世界を舞台の話ならば、それは誰が主人公になるのだろうね?」
「それは、小説の一人称視点の──」
「本当にそうかな?書かれていないだけであって、もしかしたら別にいるかもしれないよ?」
「そう、かもな……」
彼女の言葉に圧倒された。
いつもは、そんなことを言わない彼女が珍しく、学者が語るようなことを言ってきて少し驚いた。
でも、彼女は知らないだろう。
この小説の主人公は僕だということを。
小説には一冊一冊の中に世界が一つ一つあり、それぞれの特徴が詰まっている。
でも、ある一冊は現実を教えてくれるものがある。それは、苦しいものではなく僕へと勇気をくれるものだった。
僕と同じ名前の小説。彼女がわざと同じにさせたのだろう。
未完成な小説。変らない過去。この世にいない君。
これまでの彼女との出会いから別れまでハッピーエンドにしようと奮発していた僕の行動は間違っていないか、本当にハッピーエンドに終わっていたのか。
その答えは誰も知らなかった。
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