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エピローグ
「さて、次は明日の天気です。日本に秋雨前線がかかりこの一週間は不安定な天気になるでしょう。さて、他にも...」
自然の光がとっくの前に消え、人工の光が部屋のなかに微弱に降り注ぐ、暗い部屋の中で青年は近場のコンビニで買ったアイスコーヒーを片手にテレビを見ていた。
すると、ポケットにいれていた携帯が鳴った。
「もしもし」
「こんばんは。編集者の山田です」
「あ、どうも。今日はどんな用件で?」
「前に言ってた小説の方って完成しましたか?」
「その件ですか、生憎まだ終わってなくて...」
「そうですか。特に何とは言いませんが、出きるだけ早く書いてくださいね」
「分かりました。では」
青年は一方的に電話を切った。
重たいからだを手と足を使って持ち上げ、窓を開けベランダに出る。
外の景色は夜と言い難い程明るく、人や車で賑わっている。引っ越した当時は好きだった景観は高層マンションや高速道路の建設によって、少し悲しくなった。
寒い季節の訪れを象徴するかのように寒い風が強く吹く。窓を開けていたせいで中に置いていた紙が宙を舞った。慌てて部屋の中に戻り窓を閉めて、散乱した紙を集める。新聞紙やクレジットカードの契約書などありとあらゆる紙の中に不在届けがあった。すぐに、一階に降りて宅配ボックスに向かう。自分の部屋番号と暗証番号を入れ、中から段ボールを取り出す。そして、自分の階にエレベーターで上がり部屋の中に戻った。
送り主は母だった。段ボールを開けると中には食材や商品券もろもろと手紙が入っていた。心配症の母は月一回に色々なものを僕に送ってくる。正直厄介だが嬉しくもある。しかし、今回は違った。
手紙の中には母からの古い便箋のような二個あった。その便箋は玲奈からだった。慌てて開けようと伸ばした手を引っ込める。裏に何かが書かれていた。
『第二部はあなたにお任せします』
それは僕に何を表しているかすぐに分かった。小説家の僕に「未来」の僕視点を書いて欲しいということだ。
何故これを僕に書いたのか?小説家になることを分かっていたのか?
いくつかの疑問が頭を埋め尽くす。でも、そんなことはどうでもいい。
「もしもし、例の小説ですが違う小説に一旦変更してもよろしいでしょうか?」
気付けば僕の体は勝手に動いていた。
それから数時間後、地平線から太陽が顔を出し始めた。
その光を浴びる人は誰であろうと均等に降り注ぐ。人や動物も関係なしに。
でも、その朝は今日の希望か絶望を運んでくるのかは誰にも分かりはしない。例えそれが絶望でも人は必死に足掻きそれを希望に変える。
僕もまたその一人だ。
さあ、始めよう。君と僕の終わることのない小説を。
そっと僕はパソコンのキーボードにそっと触れた
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