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第一話
「で、ここの前文からしてこの主人公の心情は……」
始業式から約二週間が経ち僕は高校二年生になった。
クラス替えによって「はじめまして」の人もいれば「今年もよろしく」の人もいる。どちらかと言えば「はじめまして」の人が大半だ。
それなりに知らない人ばかりで少し気まずい雰囲気になるかと思いきや、たった一週間でクラスにグループができ始め皆仲良くしていた。
しかし、僕はどのグループにも入れていない。別に最初のスタートダッシュに失敗したわけではない。ただ、グループに入ることが嫌なのだ。中学の時は大人数で話すことが好きだったがあの事件以来避けるようにしている。それでも、友達は数えるほどだが作っている。
昼休み
「なぁ隼人《はやと》、あの南さん可愛くないか?」
教室の端っこで友達と「このクラスで可愛い子は誰だ」というバカな議論をしている。自分も少しは『青春』という名の恋をしたいと思う年頃だが、根暗い部分が目立ってしまっているのか女子は寄ってこないし、あまりモテない。だから、友達とこんなバカな話で日々を楽しんでいる。
「でも、俺的にあの五十嵐さん?も良いと思うけどな」
「あー分かる。何か凛としてるというか、あのクールさがたまんないな」
「あの子女子バスだったっけ?何か大人しそうに見えて実は活発って感じでギャップがあるな」
「いや、まじそれな!」
クラスの全員にこの声が聞こえようとお構いなしに話す。こんな会話が何より楽しいのだ。
放課後
「きょうつけ、礼!」の号令が終わった瞬間、一番乗りに教室を出て、家まで徒歩20分かかる道を一目散にダッシュで帰る。すれ違う近所のおばちゃんは「おかえり」と優しい声をかけてくれる。その声に僕は軽く会釈する。
汗だくになりながらも10分程で家に到着した。鞄を脱ぎ、即座に2階にある自分の部屋へと向かう。
ベットの上に置いてある服に着替え、机の近くに置いてあるリュックを持ち、また玄関に向かう。
リュックの中にはサッカーのスパイク、レガース(脛当て)、サッカーノート、自転車の鍵を入れている。玄関に置いてあるサッカボールを持ち家を出る。向かう先は自転車で10分程の商店街だ。いや、シャッター街と言った方が適切かもしれない。
今から約二十年前までは栄えていたらしいが、年が過ぎると共に、近くにスーパーやコンビニが出来たせいで収入が減り、ほとんどの店がやめてしまった。
立ちこぎで風を切るかのようなスピードで自転車を走らせる。
見慣れた街、見慣れた風景に飽き飽きしながら漕ぐと十分ほどで目的地に着いた。
シャッター街に着くなり入口付近に適当に自転車を置き、手前から四番目の裏路地に入る。そこの道を抜けると目の前には広場がある。元々何に使われていたかは分からない。風の噂によれば、事故物件が建っていたらしく撤去されても誰も住まずこのまま放置されているらしい。どちらにせよ、僕にとってこの場所は最高の環境だった。
この周りには古い建物が隣接しており、周りからは見えないようになっている。それに加え、建物自体が低いためしっかり光も入ってくる。雨の日は建物の屋根で雨が防げる。こんな場所はどこにもないだろう。
すぐにサッカーの練習できる準備をし、開始する。
いつものリフティングやドリブル、イメトレして相手を抜かす練習。サッカーは引退したが好きという気持ちはまだ残っていて唯一の特技として今も続けている。
約1時間程、練習して休憩をとっているとき近くに置いてあったスマホが鳴った。ケータイを見ると30分後に大雨が降る予報が出ていたので今日はそこまでにして帰ることにした。
帰る瞬間、人の気配がして後ろを振り返る。そこには、雨の日に僕が座っている場所に女の子が本を読んでいる姿がうっすら見えた、様に思えた。
翌日
休日だというのに朝から空の青さが見えないほどの黒い雲が空を覆い、大量の雨が町を濡らしていた。しかし、この雨も少し時間がたてば次第に弱くなっていった。
雨が弱くなるまで勉強していた僕は頃合いを見てサッカーをしに行く準備を始めた。
一階へ降り、玄関で靴を履いていると、階段を降りる音が聞こえたのか、お母さんが玄関へ来た。
「今日は友達とサッカーをしに行くの?」
「まあ、そうだね」
「雨なのに友達も大変だね。気をつけて行くのよ」
「それくらい分かってるって。じゃあ、行ってきます!」
母には路地裏でサッカーをしていることを言っていない。友達といつもサッカーをしていると嘘をついているのだ。
靴を履きウィンドブレーカーを着て家を出る。今日もあの路地裏へと向かう。
雨の日は何かと面倒だがこれもこれで中々好きな自分がいる。
晴れの日は以前のような練習をするが、雨の日は出来ることが限られているので、大抵はフリースタイルの練習や基礎練習をしている。やる気が起きないときは近くに置いてあるレンガに座り動画を見るかそこに寝転んで本を読んでいる。
今日は何をしようか、と心を踊らせていると気付けば目的地に着いていた。雨に濡れない場所に自転車を置き、かごにウィンドブレーカーをいれる。周りに誰もいないかを確認して、中に入る。相変わらずシャッター街の中には誰もおらず、雨が商店街の屋根や近くの建物に当たる音だけが響いている。
そして、いつもの路地裏に入る。予想通り広場の土はぐちゃぐちゃになっていた。それでも、屋根のおかげで濡れていない部分もあった。いつもの座っているところに行きスパイクに履き替える。スマホを取り出し今日の練習する技を探していた。
すると横から
「ねぇ、君は誰なの?」
と見知らぬセーラー服を着た女子高生のような人が話してきた。
「君こそ誰なの?」
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