第二話

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第二話

「君こそ誰?」  咄嗟に言葉が出てしまった。  まさか、こんな所に人がいるとは考えていなかった。ましてや、このシャッター街にいる事自体が珍しい。  この場所に思い入れがあって 「久しぶりにあそこに行ってみようかな」と、思うことはあるかもしれない。それでも、何個もある路地裏からこんなところに来るなんて滅多にないことだ。 「言っとくけど、私が先にここに来たから私が使うからね」  と彼女が睨み付けて僕に言う。 「それは愚問だな。僕は毎日と言っていいほどここに来ている。先に来ようがここは僕の場所だ」  と僕もすかさず、睨み付けて彼女に言い返す。 「私だってここに毎日来ているわ。皆の目を盗んでここに来るの大変なの。だから、私が使います」  何言ってるんだこいつと、思ってしまった。  皆の目を盗む?この周辺に人なんていないのに何を言ってるんだ?と考えていると 「ねえ!聞いてるの?」  と大声で言われる。 「バカかお前。こんなとこで大声だしたら周りに聞こえてしまうだろ!」 「はぁっ!」と顔をして、彼女は手で口を塞ぐ。 「これだから、バカは嫌いなんだ」 「な、何ですって!?私はバカではありませんよ~だ」 「いや、どう見ても言動がバカを象徴してるだろ」 「バカじゃないって言ってるでしょう!てか、バカって言う方がバカなんです」 「そんなこと言っていいの?僕は中学で全国模試5位、学校内では毎回学年1位、そして偏差値72の高校に通っている。つまり、君はこの僕より賢いと言えるのかね?」  煽り口調で、満面の笑みで彼女に向かって言う。 「くっ……」と言い、彼女は言葉を詰まらせる。  すごい自慢気に語ったが勉強もサッカーにしか取り柄がない僕にはこれが普通になり始めている。  二人の間に沈黙の時間が入る。その間、雨が建物の屋根に当たり、幻想的な音が周りに響く。 「もういい。私はここの端っこで本を読むから邪魔しないでね」 「誰がお前みたいなバカ女の邪魔をするか」  彼女は僕がいつも座っている所で見たことのない小説を開き静かに読んでいる。  僕は彼女が視界に入らず、雨に濡れない所で今日の練習用の動画を探すことにした。  今日の動画を探しながら、僕は彼女のことを観察する。こう見えても人間観察が趣味の一つで学校でも知らない人に急に話しかけることはできないため、観察して話せそうな人から話しかけ友達を作る、という何とコミュ障がしそうなことをしている。  彼女の読書をしている姿をみるとかなり大人しい感じかある。歩く姿もどこかしら風情のある歩き方だった。  一言で言えば「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と例えることが出来るほどの美形であった。  しかし、その姿は喋れば全てが台無しになるほどもったいないものでもあった。  考えながら彼女を見ていると、視線を感じたのか、こちらを見た。 「ちょっと、さっきから何見つめてるのよ変態」  鋭い口調で言葉を放ってきた。 「ち、違うし。誰がお前のような奴を見るか」 「なに図星だからって動揺してるのよ。バカじゃないの」  その言葉に僕は何も言い返すことが出来なかった。  その場を誤魔化すかのように僕はすぐに練習を開始した。彼女もまた本を読み始めた。  まだ朝の8時だと言うのに湿気が高いのかじめじめしている。立っているだけでも、額から汗が出ていた。  手始めに簡単な技を選び練習を始めた。最初は全然出来なかったが1時間もすればコツを掴み出来るようになった。  それから、色々な動画を探しながらも、面白そうな動画があれば、すぐに練習に取りかかった。  時間の都合もあり、最後は大技に挑戦することにした。しかし、何回やっても上手く出来ず、気付けば1時間も練習していた。  その間彼女はずっと小説を読んでいる。靴とボールが当たる音、靴が濡れた土を踏む音が鳴ってもその集中が途切れることはなく、読み続ける姿は何とも美しかった。  その後も何度も練習した。しかし、一回も出来なかった。時間を確認しようと腕時計を見ると針が12時を指していた。  最後のトレーニングとして、体力が落ちないように20m程の幅を10往復ダッシュする。半分ほどすれば息がきれ始めた、終わる頃には、足が棒になるほどの疲労がたまっていた。深く深呼吸を繰り返し、息を整える。  帰る準備を始める。しかし、彼女はまだ本を読んでいた。家に帰らないのか、と思いつつも、何か言えば『邪魔しないでくれる』なんて言われそうなので何も言わず僕は帰ることにした。 「ただいまー」 「あら、お帰り。もうご飯できてるわよ。先にお風呂入ってくる?」 「うん、そうするよ」  お風呂場に向かい服を脱いだ後、頭と体を洗い風呂に浸かる。  運動後の後の風呂は極楽である。なんて考えていると、不意に彼女のことを思い出した。  あの子は何かと変な部分が多かった。  第一に言葉のすれ違い。あそこに来るまでに人混みを避けるなんて言っていたが、誰も歩いていなかった。  そして、二つ目に彼女の所持品。持っていた小説だが僕は週一で数件の本屋に通っている。それでも、彼女の持っていた小説は見たことがなかった。  いったい彼女は何者なのか?と疑問が浮かんだがさすがに杞憂だと思い忘れることにした。  お母さんが準備していたご飯を食べた後、すぐに、僕は勉強するために自室に籠る。  母からは「勉強ばかりせずに友達と遊んだら?」と言われる事が多かった。  しかし、僕はそうすることが出来ないのだ。  過去からの恐怖(トラウマ)
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