第三話

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第三話

 僕はサッカーが大好きだ。  僕がサッカーを始めたのは幼稚園、年長の頃、父が有名なサッカーのクラブチームの監督をしていたのに憧れ、僕もサッカーを始めた。幼稚園から小学校まではクラブチームを入っては辞めて、入っては辞めての繰り返しだった。  父曰く、人に個性があるように、クラブチームもそれぞれの重点を置くところがバラバラだったからだ。基礎をずっと練習するチームもあれば、ドリブルやパスなどの技術も練習するところもあった。ひとつだけ上手くなるのではなく全体的に上手くなった後、何か一つを上手くなることが父の願いだった。  そんなある日、僕に転機が訪れた。  小学4年生の頃、市内で一番強かったクラブチームに入っていたとき、全国でも三本の指に入る地元のチームとの練習試合があった。結果は惨敗したが、向こうの監督さんからクラブチームに入らないか、と招待された。活動場所が近かったこともあり、僕はこのチームに移籍することになった。  それから僕の日常は変わった。周りの人は自分より遥かに上手く、手の届かない存在と言っても過言ではなかった。  この時始めて挫折を味わった。初めての苦痛から立ち直ることができなかった。  そんなある日、父が僕のところに来てこう言った。 「お前、このまま終わらせるのか?」 「だって、今の僕の実力ではあの子には到底届かないし」 「そんなこと知るか!お前はお前、あいつらはあいつらだ。全部であいつらに勝てなくても、たった一つでもあいつらに勝てればいい。そうすれば、おまえだって皆から認められる。だから、だから……」  その時の父は怒っているようで悲しんでいるような、そんな顔をして僕を見つめた。  その言葉を聞いた翌日から僕は復帰した。今のチームに足りないところを自分が補えるように重点的に練習した。  その結果チーム全体が強くなり、皆からは欠かせない存在となった。  小学生6年生の時、監督からの推薦もあり僕は関西代表選手となった。  小学校を卒業後、僕は中学の部活に入ることにした。別にここの中学の部活が強いわけではなく、昔から部活に入りたかったという理由だけで、入ったのだ。  しかし、入ってから4ヶ月この部活は絶望的だった。  まず、部員が全員揃わないのだ。ここに入る人は少しおちゃらけた人とかモテたいなどの安直な理由で入部した人がほとんどだった。 だから、その中で顧問が指示しても 『俺らはサッカーをしに来たんじゃね、遊びにきてんだよ!』と言いまじめに練習をしない。  次に顧問もダメなのだ。知識があまり無く教え方がとても下手すぎる、基礎中の基礎すら教えれないのだ。  そんな状況を変えるべく、僕は部員の中で一番まじめなキャプテンに相談することにした。 「すいません、今のこの状況って変えることはできないんですか?」 「すまない、僕の力不足だ。僕も昔からずっと言ってきたが誰も言うことを聞いてくれなかった。このまま続けばこの部活は廃部になるかもしれない……」  その言葉を聞いた瞬間僕はある提案をした。  翌日、キャプテンが部員を全員集合させた。  今の現状、これからどうなるかなどを全て話した。そして、その最後に「辞めたいやつは今すぐ辞めろ」とキャプテンが言った。  案の定大半の子が『面倒だ』『暑苦しい』などと言いその場を去った。  しかし、この意見に賛同した人も少なくはなかった。  それからと言い雰囲気はがらりと変わった。真面目に、全員が勝つという目標を掲げ日々励むようになった。  結局は先輩達はあまり良い結果を残すことが出来なかったが、全員笑顔で、誇らしげに卒業していった。  僕らの世代は圧倒的に強くなった。どこのチームにも圧勝し近辺の中学からは試合をして欲しいと、毎日のように電話がかかってきたらしい。  そして、最後の総合体育大会(総体)では全国4位まで上り詰めることができた。  先輩や部活に貢献したことから、学校から感謝状が送られ、テレビの取材もあり、一躍僕は人気者になった。  しかし、それに対し、良い感情を持たない人が現れた。  事の発端はある日の朝、僕が学校に着くといつも置いている上履きがなくなっていたのだ。結局は同じ学年の違う場所に入れられていたのでその時は何も思わなかった。  しかし、その日を境にいじめは毎日起きた。  ある日は自分の嘘の情報を流されたり、物を無くされたり、挙げ句の果てには暴行や物を壊される、捨てられるなどが起こった。母が学校側に伝えたが、話を聞くだけでこれといった対策もしてもらえず、僕は不登校になった。  毎日自室に籠り、これまでしていた勉強やサッカーはしなくなった。  そんなある日、僕の部屋に父がやってきた。  父の顔は怒っているようで、悲しんでいるような顔は、昔のことを思い出させるようだった。  すると、父は右手を上げ僕の顔を思いっきり叩いてきた。 「痛って!何すんだよ!」 「お前に気合いをいれに来た」 「は?何言ってんの?」 「お前は不登校になってから変わってしまった。何事にも情熱的だったお前が今じゃこの有り様だ。別に、とやかくは言わない。でも、誰に何と言われようが自分の道を突き進め」  とだけ言われ、父は部屋を出ていった。 『とやかく言うつもりはない』と言いつつも色々言っていたことに何かと文句をつけたい気分だ。それでも、あんなに言われたのは小学生以来だ。  それから、僕の気持ちは日々変わっていった。  不登校になってから3か月後、僕は学校に行く決意をした。とは言っても、いじめられる可能性はないとは言いきれないので、先生と相談して保健室登校となった。遅れた期間を取り戻すために必死に勉強し、偏差値72の公立高校に進むこともできた。  高校からは中学のようにいじめられるのが怖いので、髪を長く伸ばし、(伊達)眼鏡をかけ雰囲気を暗くした。仲のいい友達は前より減ったが、この姿でも学校は以前より楽しいのだ。
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