第六話

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第六話

「えー、今から文化祭の店出しを決めます。それに伴って...」  委員長の僕は黒板にある店の名前を書く。  メイド喫茶、クレープ屋。  この二つはこれまでの文化祭で人気だった店だった。多分このクラスの中にもこれをしたかった人がいたかもし知れない。  しかし── 「この二つの店が今年から禁止となりました。」  これを言った瞬間クラスが騒然とし始める。 「なんで、禁止になったんだ?」 「私、メイド喫茶とかでコスプレしたかったのに~」 「会長!これはもう決定事項なのですか?」  男女全体が騒がしくなる。楽しみにしてた人からしたら最悪な知らせかだから無理もない。 「静かにしてください」  副委員長の夏鈴が少しの怒りを混ぜた一言でクラスは瞬く間に静かになった。 「理由は委員長から言われますので、静かにしてください」  プライベートではいつもだらしない夏鈴だが、こういう行事や決め事では人が変わったようになる。  これは昔からのことである。中学ではこんな様子を一部の男子から『冷酷な女王』とも呼ばれていた。  皆の鋭い目線が僕という存在ー点に向けられる。 「まず、メイド喫茶では女子の伺わし行為や近隣住民からの反対意見により禁止となりました。そして、クレープ屋では食品衛生の問題を運勢側が管理や把握することが厳しいので禁止ということです」  それを聞くと、皆の顔には納得する顔、腑に落ちない顔、はなから興味がない顔の3種類に分かれていた。 「それでは、出し物を決めまてください」  その一声で数人が手を上げ色々や案を出してくれる。  クレープ、焼きそば、謎解き、どれも定番で他クラスとの争いが多いものばかりだった。  その中で一人の男子が提案を持ちかけた。 「委員長!S()S()F()からは選ばないの?」 「確かにその案もいいかもしれない。でも、これにはクラスの3/4が賛成しないと無理だけど…」 「じゃあ、今確認しようぜ。何人が賛成か」  覚悟を決めたような顔で彼は僕を見てくる。  僕がこの投票をしたくないのにはいくつか理由があるのだ。  主にSSFは通称「スーパースクールフェスティバル」の略で、これは場所が限られていて人気の出し物である、お化け屋敷、ダンス、演劇が対象となっている。しかし、これは3年生がすることで僕たち1、2年生がすると場違いに思われるのだ。  それに加え、これは文化祭の2週間前にプレゼンを行い、生徒会といくつかの先生が判断し、その優勝クラスが出きるため負けてしまうと出し物が出せなくなってしまう可能性もあるのだ。  そのため、これはあまりおすすめ出来ない。 「では、票を取ります。賛成の人は手を上げて下さい」  放課後 「ねぇー、何であそこで嫌って言わなかったの~?」  机の上に寝転び、赤ちゃんみたいにジタバしながら彼女は僕にいちゃもんをつけてくる。 「そんなこと言えるわけないだろ、あんな空気で」  あの後、票を取ると全員が手を上げたのだ。これには先生も驚いた。結果、何かとめんどくさい仕事が僕たちに押し付けられてしまったのだ。 「そういえば、何を書かないと行けないんだっけ?」 「希望する出し物、理由、意気込み、の書類と他も含めると5枚位あったはず」 「めんどくさ!これ全部書かないとだめなの?」 「いや、全部僕が書くからいいよ。どうせ暇だし」  僕は軽く嘘をついた。 「ほんと!?ありがとう!」 「別にたいしたことないからいいよ」  僕はプリントをカバンにしまい、夏鈴を残し教室を出た。  廊下にはまだ沢山の人が残っていた。教室で楽器の練習をしている人もいれば、女子が何らかの話題で「キャッキャッ」と笑いながら話している。  そのある女子のグループの会話がそっと僕の動きを止めた 「そういえば、あの商店街の都市伝説って知ってる?」  僕はこの話題が気になってしまった。  彼女らの声が聞こえるか聞こえない程の距離で壁にもたれる。  少し、不審な目を向けられたがそれは気にしなかった。 「え?商店街ってここの近くにある所?いや、聞いたことないけど...」 「あの所の路地裏で雨が降ると霊が出るらしいよ。それも、過去か未来か分からない人が3、4ヶ月で入れ替わるんだって」  何とも不謹慎な噂だと思ってしまった。それも、信じられない程、自分に思い当たる節があった。  だめだ、だめだ、と思い一旦深呼吸をする。下を見ると、廊下には沢山の水滴が落ちていた。  雨漏りかと思い僕は上を見上げる。しかし、思えば今日の天気は晴れだった。汗が頬を伝わった感覚で自分が冷や汗をかいていることに気がついた。  汗を見るとさらに焦り気づけば僕は走っていた。  10分程全速力で走り、汗だくの姿で家に着いた。荷物を玄関に放り投げリビングに向かう。  そこには、母が洗濯物を畳んでいる最中だった。  母は僕が帰って来たことに気づく。 「あら、お帰り。どうしたの、そんなに汗かいて」 「前言ってた亡くなった親友の話したの覚えてる?」 「ええ、覚えているわよ。それがどうしたの?」 「その人って、何か不思議な体験かしてなかった?幽霊にあったとか、殺されそうになったとか、不思議な場所で未来の人にあったとか」 「うーん、…ああ、路地裏で未来から来た子にあったとか言ってたわね。馬鹿な話なんだけどね」  笑った顔で僕を見る。  その瞬間、ある小説が頭をよぎる。 「ねぇ、それ人が書いた小説って…」 「多分『未来』という題名の小説で、彼女の名前は『赤峰 玲香』よ」  この言葉を、この言葉だけを僕は聞きたくなかった
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