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第七話
2,3週間振りの雨。僕はこの景色を見たくなかった。
確認する日が来なければいいと思った。でも、それは叶わなかった。
別に、必ず行かなくてはならないという訳ではない。時には嫌なことから逃げようとする事も大事なのかもしれない。
でも、それから逃げると後悔するのは自分だ。
でも、その事を知っても後悔するのは自分かもしれない。
結局はどの選択をしても後悔をすると思う。
それならば、『やって後悔の方』がまだ良いと思う。
「それじゃ、行くか」
自分の自室で外の景色を眺めながら、ボソッと呟いた。
サッカーの服に着替え、玄関で靴の紐を結んでいると、案の定、母が来た。
「また、雨の日に行ってくるの?」
「うん、最近少しサボり気味だったからね」
「最近、何か私に隠してるんじゃない?」
「別に何も隠すことなんてないよ」
と、母を不安にさせないよう笑顔で言った
「ならいいんだけど。最近の未来を見ると昔の未来を思い出すの。だから、何かと一人で溜め込まないでね」
「うん、大丈夫だから。じゃあ、行ってきます」
僕はそっと玄関のドアを開け、家を出た。
カッパを着て、自転車のペダルをいつも通り漕ぐ。いつもと変わらないのに、ペダルを漕ぐのは少し重く感じた。今の自分の心のように。
30分程でシャッター街に到着した。
彼女がもう来ているのか不安になりながらも路地裏の広場に入った。そこには、いつもの彼女の姿はなかった。
僕は安心と不安の入り交じった感情に陥っていた。
「だ~れだ!」と後ろから誰かに目を塞がれた。
「玲香だろ」
「ピンポーン!正解です。ヒヒッ」
「なに馬鹿なことしてんだ」
「別にいいじゃない」
「まあ、僕は心が広いからな許してやろう」
「ははぁ~、我が主よ」
また、こんな茶番が始まった。二人で話したあの日以来僕と彼女の距離は瞬く間に近くなった。
多分、友達が少ない彼女にとって僕はかけがえのない友達であり、同じ境遇の人が少ない僕にとってもかけがえのない友達である。
僕は彼女が好きだ。友達として、仲間として。でも、最近の僕は少し変な気がする。
多分それは...
僕たちはいつものところに座り、二人で本を読み始める。
僕はいつこの事を話そうか考えていた。
絶対話さなくてはならないわけではない。でも、このままこの関係を維持するには僕の心と彼女にとって最悪な終わり方になるに違いない。
まだ推測だか、あの小説は僕と彼女の話だ。多分あの本の僕はなにも伝えず終わった場合の方だと思う。それは何としても避けたい。
「ねぇ、何か隠し事してるでしょ?」
「え、え、何のこと?」
心の中を覗かれ、不意を突かれたような質問に動揺してしまった。
「何も隠してないよ」
「嘘、だよね?私分かるの。昔から、色んないじめや親から隠し事されて。もう慣れたの。だから分かる、あなたが何かを隠していることが」
「そこまで言われると言い逃れも出来ないな。確かに、僕は君にとって隠し事をしている。しかし、それは君にとっても最悪の知らせなんだ。それでもいいなら教えよう」
「別に構わないよ。わたしは何でも受け入れるから」
彼女は笑顔で僕の顔を見る。その綺麗な目には偽りのない真っ直ぐな気持ちがあった。だから、僕は戸惑ってしまった。本当にこんなこと言っていいのだろうか?この関係が崩れるんじゃないか?そんなことが頭の思考を占領する。
すると、カバンの中から一冊の本が落ちた。「未来」だ。
僕は思い出した。これは彼女と僕の話だ。逃げてはいけない。また、こんな後悔するような世界にしないように。
深く深呼吸をし、拳で思いっきり胸を叩く。
覚悟は決まった
「今から僕が知っていることを全て話すよ」
「うん…」
「まず、僕は───」
その後の事はあまり覚えていない。
僕は全てを話した。
僕のこと。彼女のこと。今起きていること。
そして、彼女が死ぬこと。
嘘、偽りもなく全てを彼女に話した。
後悔しないように。
彼女の顔は終始笑顔だった。それでも、彼女の目にはその正反対の感情があった。
「──ということだ。これが、僕の知っていること全てだ」
「ふふっ。ははははっ」
彼女は大声で笑った。
「あー、面白い。そんなこと隠してたの?」
「そんな事って!?君は死ぬんだよ。それは嫌じゃないのかい?」
「嫌じゃないよ。それより、逆に知りたいくらいだったかな。確かに、死ぬことは怖いよ。でも、それを知れたから生きている間に沢山の人に恩返しをすることが出来るでしょう?」
「相変わらず君は凄いな、惚れてしまうよ。」
「え?口説いてんの?」
「違うから!」
その後、一時間以上二人で話した。
僕は「またね」と手を振り広場を出た。でも、その「またね」は数えるほどしかないことに少しの悲しみがあった。
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