弟は辛いよ

4/4
前へ
/24ページ
次へ
「……」 プチ。 俺は怒りを必死に抑え、花との通話を一方的に切った。 「黒沢どうした?」 「悪い、この本屋じゃなかったみたい」 「ははは、なんだよそれ」 笑い声を上げる須藤を前に、巻き込まなくて良かったと胸を撫で下ろす。 花は一体何考えてんだよ。本のタイトルとは言え、あんなこと言えるわけないだろ! 胸の内で悪態を吐いていると、須藤がいきなり叫び声を上げた。 「うぎゃっ!」 体を震わせながら、なぜか俺の背後を睨んで指差している。 「ちょ、ちょ、ちょっと! まさかそこのお姉さんって……」 振り向くと、先ほど猫を散歩させていた茶色いロングヘアの女性が、髪の隙間から不気味な笑顔を覗かせて立っていた。あろうことかビデオカメラを構えて。 「ひぃっ!」 長い髪の隙間から見える顔は異様に白く化粧が施され、時代遅れの真っ赤な唇の上には、ほんのり髭あとが見える。ホラーだ。 そして、よくよく見ると、その女性の顔には見覚えがアリアリだった。 「なな、何してるんですかっ! 幸仁さん!!」 そう。大学で俺が研究を手伝っている物理学教授。そして自称、姉の婚約者の櫻木幸仁だったのだ。 「おや、バレちゃいましたか。こっそり撮影して、橘くんと見ようと思ってたんですが。この変装は目立ち過ぎましたかね」 「ロボコッ……じゃなくて、櫻木教授!? あんたなんつー格好してんだよ! それになんでここに?」 「葉くんと橘くんの恋が燃え上がるように、須藤くんにご協力いただこうかと思いまして」 「協力?」 「ええ、当て馬の」 「ア、アテウマ……」 呟いた須藤が金魚のように、口をパクパクと動かしている。 本屋の客達は、この状況をドラマでも見ているかのように、クスクス笑いながら楽しそうに見物している。 そして幸仁さんの足元にいた、かつて俺が世話していた猫のミューが俺の顔を見て笑った……ような気がした。 「もおー!! いい加減にしろっ!!!」 腐女子の弟って、ほんと最悪だ!! FIN お付き合いありがとうございました(*´﹃`*)♡
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加