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「……」
プチ。
俺は怒りを必死に抑え、花との通話を一方的に切った。
「黒沢どうした?」
「悪い、この本屋じゃなかったみたい」
「ははは、なんだよそれ」
笑い声を上げる須藤を前に、巻き込まなくて良かったと胸を撫で下ろす。
花は一体何考えてんだよ。本のタイトルとは言え、あんなこと言えるわけないだろ!
胸の内で悪態を吐いていると、須藤がいきなり叫び声を上げた。
「うぎゃっ!」
体を震わせながら、なぜか俺の背後を睨んで指差している。
「ちょ、ちょ、ちょっと! まさかそこのお姉さんって……」
振り向くと、先ほど猫を散歩させていた茶色いロングヘアの女性が、髪の隙間から不気味な笑顔を覗かせて立っていた。あろうことかビデオカメラを構えて。
「ひぃっ!」
長い髪の隙間から見える顔は異様に白く化粧が施され、時代遅れの真っ赤な唇の上には、ほんのり髭あとが見える。ホラーだ。
そして、よくよく見ると、その女性の顔には見覚えがアリアリだった。
「なな、何してるんですかっ! 幸仁さん!!」
そう。大学で俺が研究を手伝っている物理学教授。そして自称、姉の婚約者の櫻木幸仁だったのだ。
「おや、バレちゃいましたか。こっそり撮影して、橘くんと見ようと思ってたんですが。この変装は目立ち過ぎましたかね」
「ロボコッ……じゃなくて、櫻木教授!? あんたなんつー格好してんだよ! それになんでここに?」
「葉くんと橘くんの恋が燃え上がるように、須藤くんにご協力いただこうかと思いまして」
「協力?」
「ええ、当て馬の」
「ア、アテウマ……」
呟いた須藤が金魚のように、口をパクパクと動かしている。
本屋の客達は、この状況をドラマでも見ているかのように、クスクス笑いながら楽しそうに見物している。
そして幸仁さんの足元にいた、かつて俺が世話していた猫のミューが俺の顔を見て笑った……ような気がした。
「もおー!! いい加減にしろっ!!!」
腐女子の弟って、ほんと最悪だ!!
FIN
お付き合いありがとうございました(*´﹃`*)♡
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