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【実験室15】
扉を開けると、室内から漂う鉛臭。
ハンダゴテの匂いでしょうか。
「お待たせしました花さん」
実験室に備え付けられている、大きな作業台の前で艶やかな黒髪が靡いています。
今日も美しい。マイ、ジュリエット。
「あら、早いわねロボコップ。今日は出張だって言ってたのに」
「花さんの命とあらば、この櫻木幸仁、命をかけることも──」
「突っ立ってないでこっちに来て」
ああ、つれない花さんは一段と魅力的です。
「イエス。花さん」
作業台に近寄ると、花さんの手元には分解された小さなキーホルダーと電子回路基板。そして何故かスニーカーも。
「花さん、これは……」
「犬の迷子防止用のGPSキーホルダーを分解したの」
恍惚な表情を浮かべ、花さんが掌に収まるほどの小さな基板を眺めています。
「嬉しそうですね」
どうやら、本格的に花さんが動き出すつもりのようです。
「ふふ、GPSをね、スニーカーの底に埋め込もうと思うの」
「なるほど、良いお考えです」
「でしょ。お正月に帰ってきたとき、葉がこのスニーカー欲しいって言ってたのよね」
「それで私は何を?」
「このGPS専用アプリから、追跡ログデータを定期的に記録していくプログラムを組んで欲しいの」
「わかりました。因みに、なぜ追跡されるのですか?」
いっそのこと、葉くんと橘くんのお部屋に忍び込んで、盗聴器でも仕込めば早いと思いますが。
「葉の行動を把握するの。いつどこで、何をしてるか。全部ね」
「全部、ですか」
見つめた花さんの瞳が、儚さを纏って窓の外に向けられていました。窓の外では、花さんの美しさを祝うように薔薇の花弁が舞い上がっています。(注:櫻木の幻覚です)
「ねえ、ロボコップ……どんな順調な恋にも、必ず危機は訪れるものなの」
「花さん……」
まさか貴女は、弟の恋の行方を心配してこのようなことを……
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