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あの気怠そうな三白眼。
スーツの似合わない茶髪。机をトントンと叩く手持ち無沙汰な感じからして、タバコは吸っている可能性あり。
会話の最中、黒髪さんの言動に、やたらと頷き同調を示している。
私の導き出した推論は……
「過去に荒れた生活を送っていた心優しき元ヤンキーさん(※茶髪)が、仕事帰りのある雨の日、ずぶ濡れで高熱を出して倒れていた美青年さん(※黒髪)を拾います。元ヤンキーさんが四六時中付き添い、手厚く看病してあげた甲斐あって、すっかり元気を取り戻した美青年さんは、恩返しとばかりに元ヤンキーさんの荒んだ心も身体も開発してあげて……つまり。元ヤン、健気受けですね!」
「最適解よ!」
花さんが唐揚げを頬張りながら、満足そうにカウンターに目を向けます。私も嬉しくて花さんと同じようにカウンターを見ます。
どうやら、お手洗いで席を外していた黒髪さんが帰ってきたようです。元ヤンキーさんは顔を綻ばせて手を上げています。
私たちは居酒屋の喧騒などもろともせず、カウンター二人の会話に集中します。
ラボで行う遺伝子編集を思えば、どおってことない集中です。
「ただいま」
「お帰り。次、何飲む?」
「日本酒にしようかな。お前は?」
「俺、ちょっと……タバコ吸いに」
立ち上がろうとした元ヤンキーさんの腕を、黒髪さんが掴みました。
私と花さんは息を止め、二人を見守ります。
これは期待できる展開かもしれません。
「我慢できないの?」
「うん……我慢できない」
「俺、タバコ苦手だって知ってるだろ」
黒髪さんの目つきが鋭く、それでいて妖艶な雰囲気に変わりました。もしや、溺愛ドSの属性でしょうか?
「あ……ご、ごめん。気をつけるよ」
そして元ヤンキーさんは、仔犬のようにしゅんと項垂れています。さすが健気受け。
すると、美青年さんの手がすっと伸び、元ヤンキーさんの背中をトントンと叩きながら言いました。
「この後、俺ん家で飲み直すか」
「きゃあーー♡」
花さんが興奮しています。
「どうしたのですか?」
「アツすぎる展開じゃない! あの二人の鞄に盗聴器仕込んでこようかしら」
「それは犯罪なのでやめて下さい」
たまに暴走してしまうこともありますが。
幸せそうな花さんを見れるだけで私は幸せです。
「はあぁ、今夜はきっと興奮で寝れないわっ」
目の前の花さんは、にやにやし過ぎても美しいままです。
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