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プロローグ
「———くん、——うくんってば! ねぇ! ゆうくん! 早く起きなさい!」
腹部を覆う圧迫感と鼻をくすぐる毛先の感覚に意識を覚醒させられ、重く閉ざされていた瞼を開けると、瞳に写し出されたのは白地に水色の襟、ピンクのリボンに襟と同色のミニスカートを履いたJKが俺の上に跨っていた。
前屈みで俺の顔を覗き込んでいるために、疎かになった胸元、ミニスカートで跨っているために捲れあがった裾。
見えそうで見えない焦ったさに、角度を変えるために上半身をモゾモゾと動かすと『スパン!』という快音と共に額に痛みが走る。
「イテッ! ……にすんだよ」
マウントを取りながら腕を組み俺を見下すJKの右手にはスリッパが握られていた。
「口で言って起きないからです。それとエッチな目で私を見た罰よ!」
スカートの裾を押さえながらベッドから下りた陽菜乃は両手を腰に当てながら、前屈みで小声を続けた。
「だいたいね? なんでいつもアラーム止めちゃうのかな? 私が起こしに来なかったら毎日遅刻だよ? ゆうくん、そのことちゃんと分かってる? そして私に感謝してる?」
だから前屈みになるな! と心の中で呟きながらも、その魅惑の胸元から目が離せないのは漢の性というものだろう。
何も答えない俺の視線に気づいた陽菜乃が胸元を押さえて後退る。
「いやっ、まぁ、なんだ。アラームってのはな? ずっと鳴ってると近所迷惑だろ? だから早めに止めないとだな———」
「壁を隔てた隣の私の部屋にも聞こえないくらいの音量なんだから気にする必要ないの」
俺の言い訳は文字通り瞬殺されてしまった。
「あ〜、そのだな〜」
ジト目を向けてくる陽菜乃に対して有効な言い訳はないかと思案していたが、はたと気づいた。
「いや、ちょっと待てよ。おい、ひな。お前なんで俺の家にいるんだよ。勝手に入るなと何度も言ってるだろ。とりあえず家のカギ返しやがれ」
陽菜乃に向けて右手を差し出すと、バツが悪そうな表情でスリッパを手渡してきた。
「……おい」
攻守交代、陽菜乃にジト目を向けると視線を逸らしたまま、俺の部屋から逃走していった。
「あ、そうそう。ごはん冷めちゃうから早く準備して。一緒に学校行こうね」
「……」
パタンとしまる扉を見ながら、俺は深いため息をついた。
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