1.秋風はまだ夏の余韻

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リビングの大きなローテーブルに、今日の宿題を出して、やり始める。いつもなら、夕食後にそろそろやらないとダメだと思ってやり始めるのだが、今回は気が向いたので早々にやる。 宿題は二つで、数学の問題集で指定されたページの問題を解くのと、明日の英単語の小テスト勉強だ。 数学の問題集は、大学の入試問題から抜粋した例題を理解して、問題を解き、答え合わせする。正解するまで、何度もやる。英単語も同様に覚えるまで、何度もやる。 それから、覚えたと思っても、時間を置いてから、記憶できているか再度確認する。念入りに、不備がないか、自分が安心するまで続ける。 もし、親が勉強しなさいと一言でも発したら、僕は途端にやる気を失って、勉強などしなかっただろう。信用できない人に言われて、やる気が起きるほど、子供はバカではない。 ただ、黙って空気に徹する。それができる親だったことは、かなり恵まれていると感じていた。僕がいい成績を取っているから、親が黙っているだけかもしれないが……。 「今日、鍋にするけど」 母親がキッチンから話しかけてくる。それは今晩の料理について文句はないかと事前に言っておこうという腹積もりのようだった。 僕は別に食にこだわる性格ではないし、嫌いなものが出てくるわけでもないので、自分の口を今から鍋のつもりにしておく。 「わかった」 僕は今回、それだけ言った。もちろん、気分によっては料理に関してリクエストすることもある。普通の鍋じゃなくて、キムチ鍋にしてほしいとか、そういうリクエストだ。僕のちょっとした希望は、通ることもあれば通らないこともある。 宿題が終われば、僕はテスト一週間前でない限りは、勉強する気はない。余った一日の時間はテレビゲームをしたり、漫画を読んだりと娯楽のために使っていた。基本的には、怠惰なのだ。 ただ、テストの点数は九割ほど取らないと嫌だと思うプライドがあったので、自由時間を全て娯楽に浪費することはなかった。ちょうど怠惰八割、勉学二割と言ったところか。そのくらいが、どうやら僕の性に合っていた。 僕は、そんな毎日を飽きもせず続けていた。
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