1.秋風はまだ夏の余韻

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夜に結構、激しく雨が降った。今年の台風が過去五十年で最悪とも言われるほどの猛威を振るいながら、九州をかすめて韓国に上陸した。 それにも関わらず、僕の住む関西地方でも台風の(あお)りを受けて、夜中に結構な質量の雨粒が家の壁を穿(うが)つような音をおぼろげに記憶していた。 朝のアスファルトは黒く濡れたままで、朝日に照らされ、より鮮明に黒々しくなっていた。空気の(ちり)や汚れが雨で洗い流されたからなのか、ただ単にいつもより早めに登校しているからなのか、今日は遠くまでよく見える。 最寄り駅から高校までの通学路は、いつもならたくさんの生徒たちで溢れているが、時間帯がいいからか人がほとんどいない。文化的な建造物が残る地域だから、土塀の家屋や立派な土蔵があり、その合間を僕は歩いていく。 そして、その先に創立百十年の古い校舎が現れる。銃弾で空いた穴が壁にあるという戦争の気配の遺された歴史的建造物で、昔からの木造の廊下は時代の空気を吸って生々しく(つや)めいていた。その古き色味は、長い年月を重ねて、数え切れない人たちの想いを支えてきたことを自負している。 校門を通ると、右手には文化創造館という現代建築の四角い鉄筋コンクリート造の建物がと昔の石造りが残る校舎があり、左手にはグラウンドが広がっている。グラウンドでは、部活動の朝練が行われていた。
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