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僕は妙だなと思った。ここでピアノを弾いているものだと思ったのだが、気のせいだったのだろうか。僕は首を傾げながら、引き戸に手をかけて少し力を加えてみる。すると、扉が少し開いた。鍵が開いていたのだ。
僕は途端に緊張しだして、唾を飲み込んだ。中をそっと覗いてみる。こんなところ、誰かに見られたら、絶対嫌だなと思う。それなのに、僕の身体は勝手に中の様子を見ようと動いていた。
女の子が、一人、ピアノに突っ伏して、沈黙していた。
僕はドキリとして、音楽室に入る。すぐさま、女の子の側に行き、彼女の肩を指先で軽く叩いた。
「お、おい……」
緊張のためか、何年も喋ってなかったみたいなかすれた声が出た。僕は咳払いして、再度呼びかけた。
「大丈夫か?」
反応がない。どうしたらいいかわからなくて、僕はしゃがんで彼女の呼吸に耳を澄ませた。僕の心臓の音がやけにうるさくて、小さな音が聞き取れない。
僕はもう一度、彼女の肩に指先で恐る恐る触れた。それから、ゆっくりと揺さぶってみて、大丈夫かどうか確認する。
「本当に、大丈夫か?」
僕の脳裏には、先日の突然倒れた彼女の姿が浮かぶ。あのときは、近くにいた男性に起こされて目を覚ましたが、どうしようもなく不安になる。
すると、呻き声が聞こえた。
「あ……れ?」
目を擦りながら、身体を起こした女の子は僕を見て、ほんの二秒だけ固まる。僕も彼女につられて、固まってしまう。
「え? あっ、私、寝てました⁉」
状況を理解したようで、彼女は急に慌てふためく。その慌てように、僕はかえって冷静な頭になる。寝ていた?
「気を失っていたように思ったけど……」
僕は率直に言う。さっきまでピアノ曲が聞こえていたのに、そんなにすぐに寝てしまうものなのか?
「あ、えと、寝てたんです」
「突然、寝てしまう?」
「はい、突然、急に、ふと、寝てしまうんです」
それは、病気か何かなのではないか?
僕はその疑問を口にしそうになり、飲み込んだ。
「大丈夫ということなのか?」
「そういうことです」
まあ、そういうことなら、これ以上つっこんだことは聞かなくていいか。僕はそう思い、少し安心した。
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