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西暦20XX年。とある地方の、都市部からやや離れたところに、2階建ての小さなコンクリアパートが建っている。
各階3部屋、合計6部屋しかないそのアパートの、2階の角部屋を1組の兄妹が借りていた。兄は九条雄哉、妹は九条華耶といい、それぞれ24歳と18歳だ。
初夏の深夜。兄・雄哉は、隣の部屋から漏れてくる、妹の「だめぇっ!」という叫び声で目が覚めた。ベッドサイドの目覚まし時計に目をやると、2時半を指している。
彼が不審に思って妹の部屋に入ると、部屋の主は腰まである黒髪を乱し、ベッドの上でうなされていた。雄哉は慌てて妹を揺り起こす。その体は寝汗で冷え切っていた。
「兄貴……」
うっすらと目を開けた妹・華耶は、次の瞬間飛び起きて、兄にしがみついた。
「悪い夢でも見たか?」
兄の穏やかな声を聞いて、華耶はやや落ち着いたらしく、それでも切羽詰った調子で喋り始めた。
「ビルが……、3階建てのビルが燃えてる夢を見たの。白衣のおじさんたちが逃げ出してきているから、研究所か何かだと思うんだけど。……そう、慶ちゃん! あれは間違いなく慶ちゃんだわ!」
雄哉は、もっと都会のとある街で1人暮らしをしているはずの16歳の従弟の名を聞き、目を見張った。しかし、妹は重要な事を思い出して話そうとすると、興奮のあまり要領を得ない話し方しか出来ないため、兄はとっさに華耶の右手を自分の左手で軽く握り、一言「ビジュアルを」とだけ言って目を閉じた。
彼ら兄妹と従弟の慶は、いわゆる「超能力者」だった。3人とも、お互いの体の一部を触れ合わせた状態で使うことができる「接触テレパス」と呼ばれる能力を持ち、さらに、雄哉には目印としてイメージした人間や建物などのもとへ一瞬で跳ぶことが出来る「瞬間移動」の能力が、華耶には少し先の未来を夢という形で見る「予知」の能力が、慶には他人を睨み据えることで、その体の可動部位を、その人の意思とは関係なく、慶自身の意思で動かすことが出来るという一種の「念動力」が備わっていた。
そのため、先ほどの華耶の悪夢は「予知夢」であるとみた雄哉は接触テレパスを用いてその映像を確認することにしたのだった。
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